インボイス制度に個人事業主はどう対応すべき?【免税事業者の選択肢は3つ】

インボイス制度に個人事業主やフリーランスはどう対応すべき?【免税事業者の選択肢は3つ】

令和5年(2023年)10月1日から消費税のインボイス制度が始まります。
インボイスを発行できる事業者となるための登録受付もすでに始まっていて、一(いち)税理士としても「いよいよ来るなー」と感じています。

この記事では、そんなインボイス制度について

といった点について、売り手・買い手それぞれの視点に立って解説していきます。

びとう
【この記事は私が書きました】
税理士・尾藤 武英(びとう たけひで)
京都市左京区で開業している税理士です。
税理士試験大手予備校の元講師で、事務所開業後は所得税などの研修講師を多数担当。
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インボイス制度とは?【今と何が変わるのか】

先に結論から言うと、インボイス制度が導入されることで今と変わるのは以下の2点です。

特に大きな変化は1つ目の「消費税の納付税額の計算方法」です。
が、これについて解説する前に、その前提となる消費税の計算のキホンを改めて確認しておきましょう。

【前提】消費税の計算のキホン

国に払う消費税はどうやって計算するんでしょうか?
その基本的なパターンを文章にすると↓こうなります。

【基本パターン】
売上に含まれる消費税額-仕入や経費の支払いに含まれる消費税額=納付すべき消費税額

【たとえば】
1年間の売上高が550万円(うち消費税50万円)、経費の支払いが220万円(うち消費税20万円)の場合
500,000円-200,000円=300,000円→これを国に納付する

1年間(課税期間ごと)の課税売上げに対する消費税額から課税仕入れ(経費の支払い等)に含まれる消費税額を控除して納付する税額を計算します。

課税仕入れに含まれる消費税額の控除(上の具体例でいうと200,000円を引くこと)を「仕入税額控除」と呼びます。
この言葉は以後よく出てくるので、ここでしっかりと押さえておいてください。

控除税額の計算方法のキホン(一般課税と簡易課税)

ただし、上の計算はあくまでも原則的な取扱い(=「一般課税」といいます)で、

  • 選択することを事前に税務署に届け出ている
  • 基準期間(基本は2年前)の課税売上高が5,000万円以下

これらを満たす場合、仕入税額控除の対象となる金額を概算で計算することができます。
これが簡易課税制度です。

たとえば、私のようなサービス業を営む人間が簡易課税制度を選択した場合、先ほどの具体例は以下のように変わります。

【簡易課税制度を選択した場合】
500,000円×50%(サービス業の概算割合)=250,000円
500,000円-250,000円(★ここがさっきと変わる)=250,000円→これを国に納付する

というように、払った消費税の実額(ここでは200,000円)にかかわらず、
概算で計算した250,000円を引くことができる
のが簡易課税の大きな特徴です。

上で50%としている割合は業種ごとに決まっていて、これを「みなし仕入率」と呼びます。(業種によって90%〜40%の6種類)
みなし仕入率の一覧は以下の国税庁のページをご覧ください。
No.6509 簡易課税制度の事業区分 | 国税庁

また、簡易課税制度を選択すれば必ず得するわけではありません。
概算の控除税額より実際払っている税額の方が多くなる(=簡易を選んだら損をする)ことも当然あり得ます。

インボイスの保存が消費税の仕入税額控除の要件になる

上を踏まえて、「じゃあインボイスで何が変わるの?」というところを具体的に解説していきます。
まずは1つ目の「消費税の納付税額の計算方法」についてです。

インボイス制度導入後は、
仕入税額控除の要件に新たに「取引先から発行を受けたインボイスの保存」が加わります。

  • 取引先が発行したインボイスを保存している場合のみ
  • そのインボイスに記載された税額の控除が認められる

という仕組みです。

それって今でも同じやん?今も領収書さえ保存してれば仕入税額控除は認められるし。

と思われたあなた。実はそれが変わるんです…。

免税事業者はインボイスを出せない=消費税が払い損になる?

というのも、インボイスは事前に登録を受けた事業者(=「インボイス発行事業者」)しか発行できなくて、しかも、
その登録は課税事業者しか行うことができません。

つまり、免税事業者や一般の消費者はインボイスを発行できないため、
たとえこれらの人たちに消費税を払ったとしても、その分の控除は原則認められなくなります。

びとう
これが買い手側にどんな影響があるのかについては後ほど詳しく解説します。

簡易課税を選択していれば影響なし

ただ、「原則」ということはそれ以外もありえます。
それが、簡易課税制度を選択している場合です。

仕入税額控除の要件にインボイスの保存が求められるのは一般課税の場合のみで、
簡易課税制度を選択している場合、インボイスの保存なしに概算で仕入税額控除が可能となります。

「事務処理が大変」などの理由で買い手側としてインボイス制度への対応が難しい場合、
簡易課税制度の選択も視野に入れるべきかもしれませんね。

請求書などへの記載事項が増える

次は「インボイスでここが変わるよ」の2つ目の話です。
インボイス(※具体的には納品書や請求書、領収書などをイメージ)には「これは絶対書かなきゃダメよ」という項目が最大6つ↓定められています。

【インボイスへの記載事項】

  1. インボイスを発行する事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引の内容(軽減税率の対象である場合はその旨)
  4. 税率ごとに合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
  5. 税率ごとの消費税額等(端数処理は一請求書当たり1回)
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

不特定多数の人に対して販売やサービスを行う事業者(例:小売業、飲食店業、タクシー業など)は❻は省略可。
また、❹❺の適用税率と税率ごとの消費税額等もいずれかのみを記載すればOKです。

太字インボイス制度導入により新たに記載が義務付けられる項目です。
記載事項のイメージ図は以下をご覧ください。

インボイスへの記載事項のイメージ図

引用元:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」

インボイス発行事業者としての登録番号はもちろん書かなきゃいけませんし、
適用税率(軽減税率8%なのか10%なのか)はもちろん、それぞれの率ごとの消費税額まで書かなきゃいけなくなります。

びとう
「インボイスに書いてある数字を集計しただけで消費税が計算できるようにしよう」というのがインボイス制度のあるべき姿なので、このような細かい要件がつけられています。

虚偽記載には罰則あり!受け取った側も要チェック?

上の記載事項は法律で定められているものなので、
「ウソを書く」はもちろん、
「ホントはインボイスを出せない人なのにそれっぽいのを出す」
のも罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象です。

また、虚偽記載のインボイスに書かれている税額は控除が認められないので、
買い手側も受け取ったインボイスが正規のものであるかを確認し、
もし間違った記載があれば、発行者に正しいインボイスの再発行を依頼する必要があります。
(結構めんどくさそうですが…。)

受け取った側の確認ツールの1つである国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトは既に公開が開始されています。
登録番号を検索すればその事業者の情報がヒットする、という作りのようです。
びとう
以上、ここまで「インボイスで何が変わんのん?」という点(主に2つ)の解説でした。
 

インボイス制度にどう対応すべき?【売り手の立場として】

ここからは、
「個人事業主やフリーランスはインボイス制度に(売り手として)どう対応すべきなん?」
という点に移ります。

とある事業者
まだインボイス発行事業者の登録してないんですよね。
これって登録すべきなんかな…?

そう思っていらっしゃるあなたがどうすべきかは、
今現在あなたが消費税の課税事業者なのか、それとも免税事業者なのかによって変わります。

既に課税事業者(2年前の売上1000万超)である場合

まずは、現在既に消費税の課税事業者だ(2年前の課税売上高が1,000万円を超えている)という人の場合。
この場合は深く考えず、とりあえず登録をおすすめします。

「ウチは100%一般の消費者相手の商売だから、インボイスなんて出せなくても問題ない」
と思っている方も、自分が知らないだけで実は事業者相手の売上があるかもしれないですから。

ただし、インボイス発行事業者である間はたとえ2年前の課税売上高が1,000万円以下であっても免税事業者にはなれない(免税となるには自らインボイス登録取消届出書を出す必要あり)ので、その点も考慮の上ご検討ください。
びとう
また、インボイス登録をした場合、発行する請求書や領収書には上で解説した記載事項が全部書かれている必要があるので、こちらも忘れずにチェックをお願いします。

インボイス制度開始に間に合わせるには原則R5.3.31までに申請を

なお、たとえ課税事業者であっても、
インボイスを発行するためにはインボイス発行事業者の登録が必要
なのは先にも述べたとおりです。

インボイス制度開始日である令和5年10月1日から登録を受けるためには、

  • 原則:令和5年3月31日までに税務署宛に登録の申請が必要
  • ただし:同日までに申請できなかったことにつき「困難な事情」があるときは9月30日まででもOK
    「困難な事情」についてその度合いは問わない
  • →実質令和5年9月30日までに申請書を出せばOK

という流れですが、
インボイスへの記載が必要な登録番号は登録通知が来なければわからないですし、
まだ全然申請がないという今の時点(2022年9月末)でも申請から通知まで1ヶ月程度かかっていることを考えると、
自分が登録番号を知った状態で令和5年10月1日を迎えたければ、
原則の期限(令和5年3月31日)までには申請を終えておく
ことをおすすめします。

びとう
登録手続きの詳細は国税庁の以下のページをご確認ください。
[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁

記載事項が多くて結構ややこしいので、ご自身で申請される際は上のページ内にある以下のPDFなどにも必ず目を通してくださいね。
適格請求書発行事業者の登録申請書の提出に当たりご注意いただきたい事項 | 国税庁

現在免税事業者(2年前の売上1000万以下)の場合

そして、現在は免税事業者だ(2年前の課税売上高が1,000万円以下である)という人の場合。
この場合、以下のようなさまざまな要因を考慮の上、登録するorしないを決める必要があります。

  • 売上先は事業者のみか、一般の消費者のみか、両方が混在しているか
    一般の消費者のみであれば登録の必要はない。
  • 両方が混在している場合、事業者の割合はそれほど多くないか
    多くないのであれば、自社への影響やその事業者との関係性から登録するorしないを検討。
  • 売上先に消費税の課税事業者がいるか
    いない(すべて免税事業者である)のであれば登録の必要はない。
  • 売上先は消費税の簡易課税制度を選択しているか
    全員簡易課税を選択しているのであれば登録の必要はない。
  • 自分がインボイスを発行しないことによって取引の継続が難しくならないか
    売上先から取引の停止や値引きを要求されたりする心配はない?

ひとことで言うと、自分どうこうではなく「相手先がどうなのか」です。
↓下で解説するように、「自分がインボイスを出すかどうか」が相手先の消費税額の計算に直接影響するので、
その点を第一に登録の要否を考える必要がありますね。

免税事業者の3つの選択肢とそれぞれが買い手側に与える影響

免税事業者の場合、選択肢は実質以下の3つと考えられます。

  1. 課税事業者を選び、インボイスを発行して消費税を請求する
  2. 免税事業者のまま、消費税は請求しない
  3. 免税事業者のまま、消費税を請求する

  4. おそらく今❸の状態の免税事業者さんが一番多いのではないかと思いますが、
    実は、インボイス制度開始後は買い手にとって一番迷惑となるのが❸の人なのです(^^;

    というのも。
    上の3つのうち、買い手にとって最もお金が出ていってしまうのが❸だからです。
    年間の取引が売上1,000円(+消費税100円)、仕入500円(+消費税50円)の各1件だけという事業者さん(一般課税)の消費税の計算を例に、
    ❶〜❸で買い手のキャッシュアウトがどう違うのかを考えてみると。

    【❶課税事業者を選び、インボイスを発行して消費税を請求する場合】

    1. 相手先に支払った金額(消費税込み):550円
    2. 消費税額の計算:100円-50円=50円
    3. キャッシュアウト:❶+❷=600円

    ※相手先に支払った消費税分50円は仕入税額控除ができる

    【❷免税事業者のまま、消費税は請求しない場合】

    1. 相手先に支払った金額(消費税なし):500円
    2. 消費税額の計算:100円-0円=100円
    3. キャッシュアウト:❶+❷=600円

    ※控除できる税額はないが消費税も払っていないのでキャッシュアウトは❶と変わらない

    【❸免税事業者のまま、消費税を請求する場合】

    1. 相手先に支払った金額(消費税込み):550円
    2. 消費税額の計算:100円-0円=100円
    3. キャッシュアウト:❶+❷=650円

    ※50円に対するインボイスが無いため仕入税額控除は認められない
    →相手先に支払った消費税50円分丸々キャッシュアウトが増えてしまう

    この状態で❸の人と取引しようと思う人が果たしてどれだけいるのかと思うと…(^^;
    「免税事業者殺しのインボイス制度」と巷で呼ばれる理由がここにあります。

    経過措置はあるけれど…負担となるのは変わりなし

    ただ、❸の計算については、インボイス制度がはじまったらいきなり控除額ゼロ!ではなく、
    制度導入後6年間は控除額を段階的に引き下げる経過措置が設けられています。

    【経過措置の内容】

    • 令和5年10月1日〜令和8年9月30日…インボイス発行事業者以外からの課税仕入れの80%控除可能
    • 令和8年10月1日〜令和11年9月30日…インボイス発行事業者以外からの課税仕入れの50%控除可能

    とはいえ。
    2割(最初の3年間)、5割(その後の3年間)と引けない部分の金額が出ること自体は変わりないですし、
    この経過措置を受けるためには買い手の帳簿(会計ソフト等)にその旨の記載が必要。
    つまり、どうやっても相手先に手間をかけてしまう事実は変わらないわけです。

    びとう
    売上先に事業者さんがいる人の場合、「❶課税事業者を選び、インボイスを発行して消費税を請求する」以外は選びづらいのではないかというのが個人的な印象です。

    免税事業者がインボイス発行事業者となるために必要な手続き

    なお、これまで述べてきたとおり、免税事業者のままではインボイス発行事業者にはなれません。
    免税事業者がインボイス発行事業者となるためには、通常であれば

    1. 課税事業者を選択する
      (「課税事業者選択届出書」を税務署に提出)
    2. インボイス発行事業者の登録申請をする
      (「インボイス発行事業者登録申請書」を税務署に提出)
    3. 登録完了・インボイスの発行が可能に

    という流れが必要ですが、
    令和11年(2029年)9月30日の属する課税期間(=個人の場合は同年12月末)までに登録を受ける場合、❶課税事業者選択届出書の提出は不要となっています。
    (=❷インボイス発行事業者の登録申請をすれば課税事業者を選択したものとして取り扱ってくれる)

    その他、

    • 年の途中からでもインボイス発行事業者となることができる
    • 事前の届出なしに、届出書の提出日の属する年から簡易課税制度を適用できる

    といった特例措置も同日まで生きています。

    びとう
    令和11年ってなかなかイメージつかないですが、上で紹介した経過措置が完全に終わるまで、と押さえていただければと思います。

    また、インボイス登録をした場合は発行する請求書や領収書に上で解説した記載事項が全部書かれている必要があるので、こちらも忘れずにチェックをお願いします。

     

    インボイス制度に個人事業主やフリーランスはどう対応?のまとめ

    以上、長くなりましたが、この記事では令和5年(2023年)10月1日から始まる消費税のインボイス制度について、

    などといった点について、売り手・買い手それぞれの視点に立って解説してみました。
    また、インボイス制度導入で変わる点も↓改めて紹介しておきます。

    これだけ長文でも、実はまだまだ書き足りないぐらいなんですよね…。
    それだけややこしい制度なので、わからないことがあれば迷わずお近くの税理士にお問い合わせください。
    (私じゃなくても全然いいので笑)

    最後に、インボイス制度についてはいろんなところから広報資料が出ていますが、
    国税庁を含め、「これは読んでおいた方がいいんじゃないかなぁ」と思うページを以下にいくつか貼っておきますので、
    興味があれば覗いてみてください。
    特集 インボイス制度 | 国税庁
    免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A:公正取引委員会
    小冊子「今すぐ確認!中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策」を作成 – 日本商工会議所


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