生前贈与で意識すべきは「贈与税の実効税率」と「相続税の限界税率」

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京都市左京区で開業している税理士です。 元税理士試験受験校「相続税法」講師。 相続税や所得税、贈与税など「個人の方にかかる税金」に特化した税理士として活動しています。詳しいプロフィール個人ブログも更新中です

前回の記事、「将来の相続税を減らすには現状を把握することが何よりも大切!」では、平成27年から改正で増税となった相続税について「納税額を減らす」ための対策を行うためには、

・自分の財産にどれだけの相続税がかかってくるのか
・自分の財産の「相続税の限界税率」はいくらか

という2つの現状を把握することが何よりも大切だ、とお伝えしました。

なぜ、「相続税の限界税率」を知ることが必要なんでしょうか?
その理由は、この割合が、相続税対策の一番の王道である生前贈与ととても深い繋がりがあるからです。

この記事では、相続税対策として生前贈与を行うにあたって、相続税の限界税率をどう意識すべきなのかを数字を使ってご紹介します。

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相続税、贈与税ってどんな税金?【解説記事のまとめ】ページはこちら

生前贈与は効果が出るまでに時間が掛かる?

「納税額を減らす=自分が持っている財産の相続税評価額を減らす」ためにはいろいろな方法があります。
ただ、一番お手軽で、余分なお金もかけずに出来るのが現預金の生前贈与です。

でも、一方で生前贈与は

・贈与税の基礎控除額は贈与で財産を貰った方単位で年間110万円までと少ない
・相続で財産を取得した方が、相続開始時から遡って3年間の間に被相続人から贈与で取得した財産は、相続財産に加算されて相続税がかかってしまう(「生前贈与加算」と言います)

という2点から、効果が現れるまでに時間が掛かる方法だとも言われます。

ただ、これも110万円の基礎控除額の枠にとらわれるからそう思うだけです。
相続税の限界税率が10%を超えてくるような方の場合、たとえ贈与税が発生したとしても、110万円を超えて贈与をした方が、贈与税+相続税のトータルの税負担は逆にお得になります。

具体例を2つ挙げて考えます

以下に

子2人に年間100万円ずつの贈与を2年間(合計400万円)

子2人に年間500万円ずつの贈与を2年間(合計2,000万円)

それぞれ続けた場合の贈与税+相続税の税額の違いを並べてみます。

計算の前提は以前の記事から変わりません。

・贈与前の相続税の課税価格の合計額は1億2,000万円
・被相続人死亡当時の家族構成は配偶者と子2人の計3人
・1億2,000万円に対する相続税の総額は全員合わせて960万円(配偶者の税額軽減などの規定の適用は受けない)

【ケース1:子2人に年間100万円ずつの贈与を2年間続けた場合】(単位:円)

(1) 贈与税
   1,000,000<1,100,000 ∴0
   0×2人×2年=0

(2) 相続税

 手順1:課税遺産総額を求める
  1 課税価格の合計額
    120,000,000-4,000,000=116,000,000
  2 遺産に係る基礎控除額
    30,000,000+6,000,000×3(法定相続人の数)=48,000,000
  3 1-2=68,000,000

 手順2:課税遺産総額を法定相続分で按分する
  1 配偶者
    68,000,000×1/2=34,000,000
  2 子1
    68,000,000×1/4=17,000,000
  3 子2
    68,000,000×1/4=17,000,000

 手順3:税率をかけて税額を出す
  1 配偶者
    34,000,000×20%-2,000,000=4,800,000
  2 子1
    17,000,000×15%-500,000=2,050,000
  3 子2
    17,000,000×15%-500,000=2,050,000

 手順4:税額を再び合算する
    4,800,000+2,050,000+2,050,000=8,900,000

(3) (1)+(2)=8,900,000

【ケース2:子2人に年間500万円ずつの贈与を2年間続けた場合】(単位:円)

(1) 贈与税
   (5,000,000-1,100,000)×15%-100,000=485,000
   485,000×2人×2年=1,940,000

(2) 相続税

 手順1:課税遺産総額を求める
  1 課税価格の合計額
    120,000,000-20,000,000=100,000,000
  2 遺産に係る基礎控除額
    30,000,000+6,000,000×3(法定相続人の数)=48,000,000
  3 1-2=52,000,000

 手順2:課税遺産総額を法定相続分で按分する
  1 配偶者
    52,000,000×1/2=26,000,000
  2 子1
    52,000,000×1/4=13,000,000
  3 子2
    52,000,000×1/4=13,000,000

 手順3:税率をかけて税額を出す
  1 配偶者
    26,000,000×15%-500,000=3,400,000
  2 子1
    13,000,000×15%-500,000=1,450,000
  3 子2
    13,000,000×15%-500,000=1,450,000

 手順4:税額を再び合算する
    3,400,000+1,450,000+1,450,000=6,300,000

(3) (1)+(2)=8,240,000

どうでしょうか?(スマホの方は見にくくてすいません)
たとえ贈与税が1人毎年50万円ほど発生したとしても、500万円ずつ贈与した方がトータルの税負担は660,000円少なくなります。

なぜこうなるのかと言えば、贈与税の実効税率(1,940,000円/20,000,000円=9.7%)が相続税の限界税率(2,600,000円(減額した相続税額)/16,000,000円(減額した課税遺産総額)=16.25%)よりも低いためです。

また、100万円ずつの方では、相続税の手順3で適用される税率区分が配偶者分は20%になっていますが、500万円だとそれが全て15%に下がっています。
(それぞれの税率を地味に太字にしています)
これも、相続税の課税価格の合計額が減ることによって副次的に生まれてくる効果です。

これらの理由から、100万円ではなく500万円ずつ贈与した方が、贈与税の負担以上に相続税の減少効果が大きく、結果お得になる、というわけです。

もちろん、基礎控除額の範囲内の贈与でも、上の例だと2人×2年間で70万円も相続税が減るわけですから、生前贈与の有効性はここからもお分かり頂けると思います。

贈与税率の改正も影響しています

贈与税の実効税率と相続税の限界税率に差が生まれているのは、「贈与税の特例税率・特例贈与財産とは?直系尊属からの贈与は税率が低くなります」という記事でも紹介したように、平成27年度から税率が軽減されている影響も大きいです。

特例贈与と一般贈与の税率表を見比べて頂きたいんですが、

特例贈与(直系尊属からの贈与)
特例贈与の税率表

一般贈与(それ以外の方からの贈与)
一般贈与の税率表

特例贈与なら510万円の贈与までが15%の区分で収まりますからね。
これまで以上に生前贈与がしやすい環境が出来上がっていると言えるのかもしれません。

まとめ

上記のとおり、たとえ贈与税を負担したとしても、贈与税の実効税率が相続税の限界税率を上回らない限り、生前贈与は相続税の節税には非常に有効で、相続対策のスピードをも早めてくれます。
そして、そのためにも相続税の限界税率を把握することがとっても大事!ということですね。

なお、相続税の限界税率は皆さん一律ではなくて、家族構成や財産の取得プランで変わってきます。
ご自身ではイメージが沸かない場合は税理士に相談されることをお勧めします。

相続の試算を依頼する、となれば数万円以上の報酬が発生しますが、
「限界税率の出し方を教えて!」
というような相談のみなら相談料だけで対応してくれる税理士も多いはずです。
(私もそれでお受けしています。)

法人や個人事業主の節税はお金が出ていくものが大半ですが、相続対策における生前贈与は財産を取得するタイミング(相続で取得するか贈与で取得するか)が変わるだけで、ご自身から出ていく財産の量は変わりません。
なのにこれだけの節税効果がある。
これからは生前贈与がますます加速していきそうな気がします。

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