贈与税が相続税の補完税とされる理由【相続税と贈与税の関係】

贈与税が相続税の補完税とされる理由【相続税と贈与税の関係】

贈与税というのは、
生きている人から財産をもらった(=贈与を受けた)場合に、
そのもらった人にかかる税金です。

この贈与税。
これって、巷の税理士は相続税とセットで語ることが多いですよね。
このサイト(税理士事務所のホームページ)でも当たり前のように「相続税や贈与税の専門知識に長けた税理士が…」なんて一緒くたで書いてしまっていますし…。

あと、「相続税法」や「所得税法」「法人税法」「消費税法」という法律の名前は聞いても、「贈与税法」なんて法律の名前は聞いたことがありません。

なぜそうなっているんでしょうか?
てか、そもそもなぜ贈与税なんて税金があるの?

この記事ではその辺りを解説してみます。

この記事を書いた人


税理士 尾藤武英
税理士 尾藤 武英(びとう たけひで)
京都市左京区下鴨で開業している税理士です。
過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
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相続税法は「一税法二税目」

そもそも贈与税って、一緒に語られることが多い相続税と何が違うんでしょう?
それは、誰から財産をもらったときにかかるのかです。

  • 贈与税=生きている人から財産をもらったときにかかる税金
  • 相続税=亡くなった人から財産をもらったときにかかる税金

という違いがあります。
逆に言えば、違いはたったこれだけです。

これだけしか違わない理由ももちろんあります。
それは、これらの税金が同じ1つの法律で規定されているということです。

「贈与税法」は日本には存在しない

実は、「贈与税法」という法律は日本には存在しません。
「こういう場合には贈与税をかけるよ!」というのも「相続税法」という法律の中で決められています。
つまり、「相続税法」は名前こそ「相続」税法ですが、相続税はもちろん、贈与税についてもいろいろと決まりを設けているんです。

これが、我々税理士が贈与税と相続税を一緒に語ることが多い理由です!
法律的には相続税と贈与税でワンセットなんですね。

1つの税法で2つの税金について定めている。
こんな税法は相続税法ぐらいです。
この状態のことを我々は「一税法二税目」と呼んでいます。

贈与税は相続税の補完税である

じゃあ、なぜ法律上贈与税と相続税はワンセットにされているんでしょうか。
それは、贈与税は相続税を補完するために存在する税金だからです。

前述のとおり、贈与税と相続税はそれぞれ

  • 贈与税=生きている人から財産をもらった場合にかかる税金
  • 相続税=亡くなった人から財産をもらった場合にかかる税金

です。

この場合に、もし日本に相続税しか無い(贈与税が無い)としたら貴方だったらどうしますか?

死んだ時に相続税がかからないようにするために、生きている間にあらかた財産を贈与してしまおう!

と考えますよね??
「それだと相続税を設けている意味が無い!」というわけで設けられたのが贈与税なんです。

贈与税は相続税が立派に機能するため=相続税の役割を補完するために設けられている税金だと言えます。

びとう
なので、学問的には「贈与税は相続税の補完税である」なんて言われ方をします。

贈与税と相続税の計算方法における違い

贈与税は相続税を補完する税金、という位置付けですので、贈与税と相続税には計算方法において↓こんな違いがあります。

※リンク先は当サイト内の解説記事です。

これらの違いがそれぞれの税額にどれだけの違いを与えるのかを、
1億円の財産を子供2人がもらった場合の税額で当てはめてみると。

  • 相続税:2人合わせて770万円
  • 贈与税:2人合わせて約4,100万円

と、贈与税の方が5倍以上も高くなります。

これも、
「あくまでも贈与税は相続税を補完する税金にすぎないので、相続税よりも派手に課税しちゃおう!」
という考えの現れです。

にしても、こうして見ると贈与税の税額はえげつないですよね。
なんせ税率が55%もありますので…。

贈与税と相続税の課税を一体化させる3つの規定

また、前述のとおり贈与税は相続税の補完税なので、
完全に別々な税金で終わるのではなく、両者の課税を一体化させる規定も存在します。
それが、「生前贈与加算」「相続時精算課税制度」「贈与税額控除」の3つです。

生前贈与加算とは

生前贈与加算とは、

その生前に贈与を受けた財産を相続税の計算に加算しなければいけない、というものです。

相続時精算課税制度とは

生前贈与加算をより発展させたのが相続時精算課税制度です。
相続時精算課税制度を選択すれば、「過去3〜7年」とされる生前贈与加算の期間の縛りが完全に撤去され、

  • 贈与税はあくまでも仮払いに過ぎず
  • 将来必ず発生する相続時(贈与者が亡くなった時点)に、遺産と引っくるめて、全て相続税で再計算される

ことになります。

関連記事

相続時精算課税制度の詳しい解説はこちら
相続時精算課税制度とは?制度の概要や要件・デメリットを解説

贈与税額控除とは

生前贈与加算や相続時精算課税を受ける場合に問題になってくるのは、
「生前の贈与時に贈与税を払っていた財産も相続税の計算に加算しなければいけない」
という点です。

1つの財産に対して生前に贈与税を払っていたのに、今回の相続でさらに相続税までかかるんですか?それって二重課税じゃん??

…と思われるかもしれませんがご安心を(^^
この場合、生前に払っていた贈与税は相続税の計算の中で控除を受けることができます。
(これを贈与税額控除と呼びます。)

こうした扱いがあるのも、贈与税はあくまでも相続税の補完税に過ぎないからです。

関連記事

贈与税額控除を含めた相続税の計算の流れについての解説はこちら
相続税の計算の流れとは?相続税申告書第1表を使って解説

相続税と贈与税の関係性のまとめ

最後に、ここまでの内容をまとめます。
我々税理士が贈与税と相続税をセットで語ることが多い理由、それは

  • 贈与税も相続税も、どちらも「相続税法」という1つの法律で規定されているから

です。

じゃあ、なぜ1つの法律で2つの税金について定める必要があるのか。
それは、

  • 贈与税は相続税が正常に機能することを補完する税金だから

です。

生きている間であれば贈与税、亡くなった後であれば相続税。
どのタイミングでも、誰かから誰かに財産を承継しようと思えばどちらかの税金は必ずかかってきます。

なるべく少ない税負担で財産を引き継がせる(引き継ぐ)ためには、
それぞれの税金の仕組みや特徴をしっかりと掴んでおくことが大切です!


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京都市左京区下鴨で開業している税理士です。
過去に税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
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