2015年に「ここまでなら相続税はかからないですよ」という相続税の基礎控除がそれまでの6割に引き下げられた影響もあるのか、
最近は相続税対策の一環として家族間で生前贈与をする方が増えているようです。
この記事を見ているあなたも
「この1年の間に両親や祖父母からお金をもらった」
という人の1人かもしれませんね。
もし、1年間にもらった財産の合計額が110万円を超える場合は贈与税の申告が必要です。
「当てはまるわ〜」という方は申告を忘れないようにしましょう。
この記事では、
-
他人からお金などの財産をもらった場合にかかる税金=贈与税とはどんな税金なのか
を解説した上で、皆さんの関心も高い(?)贈与税についての税務署の着眼点を紹介していきます。

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贈与税ってどんな税金?
まずは「贈与税ってどんな税金?」というところを掘り下げていきましょう。
贈与税は、
生きている人からタダで財産をもらった場合に、その財産をもらった人にかかる税金
です。
「生きている人から」
「タダで」
財産をもらった場合に、
その「もらった人に」
かかる税金、というところが大きな特徴です。

また、あげた人ではなくもらった人にかかる税金だ、という点も注意ですね。
贈与税の計算方法は2つある【暦年課税と相続時精算課税】
そして、贈与税の計算方法には大きく分けて以下の2つのやり方があります。
- 暦年課税…通常の贈与税の計算方法
-
相続時精算課税…親子間や親孫間の贈与でのみ選択が可能な方法
これらのうち、この記事では一般的な計算方法である暦年課税を解説していきます。

暦年課税の計算方法は?
では、暦年課税の贈与税はどうやって計算するんでしょうか?
以下の算式を組んで求めていきます。
数字にあてはめてみると↓こんな感じです。
【1年間に親から500万円をもらった場合の贈与税】
(5,000,000円(贈与税の課税価格)–1,100,000円(贈与税の基礎控除))×15%-100,000円(税率)=485,000円(贈与税)
親から500万円をもらった(てか、もらってみたい)場合、その1割弱の485,000円を贈与税として払わなきゃいけない、ということになりますね。
以下、上の算式の中で見慣れない言葉や注意点(リンクを貼っている部分)について順番に解説していきます。
「その年分」=1/1〜12/31までの1年間を区切りとして計算する
まずは算式の出だしにある「その年分の」という言葉について。
贈与税は1/1〜12/31までの1年間をひと区切りとして計算します。
この間にいろんな人からもらった財産の金額の合計が贈与税の基礎控除(110万円)を超える場合に贈与税はかかります。
「贈与税の課税価格」とは?
そして、その次にある「贈与税の課税価格」という言葉について。
「贈与税の課税価格」って何?と思われるかもですが、これは、もらった財産の税金計算上の価値を金額に直したものです。
この金額が贈与税の課税対象額となります。
実はこれが結構奥が深くて。
たとえば、
-
100万円の現金をもらった場合の贈与税の課税価格
→現金の価値である100万円 -
宅地(上に家が建っている土地)をもらった場合の贈与税の課税価格
→路線価方式or倍率方式のいずれかを使って求めたその宅地の評価額
と単純ですが、
と、なんだか一気にゴチャゴチャしてきます。
贈与税や相続税は、土地や家、株式など、現金に限らずすべての財産に対して課税される税金なので、
こうした財産をもらった場合、
「公平に見たその財産の税金計算上の価値」を金額に直す必要があるんです。
(これを財産評価と呼びます。(参考財産評価とは))
贈与税の計算はここが一番難しかったりします…。
(税理士の腕の見せ所でもありますね)
贈与税はいくらからかかる?
贈与税の課税価格を求めたら、お次はそこから贈与税の基礎控除を引きます。
金額は110万円です。
もし、課税価格から110万円を引いたらゼロかマイナスになる場合(課税価格≦基礎控除の場合)は贈与税はかかりません。
つまり、贈与税は課税価格が110万円を超えてはじめてかかる(具体的には110万1,000円から)、ということですね。
基礎控除は「もらった人単位」で年間110万円まで
ただ、これについても注意点が1つあって。
贈与税の基礎控除は、財産をもらった人単位で年間110万円までです。
ということは、
- 1人の人から500万円もらおうが
-
5人の人から100万円ずつ、合計500万円もらおうが
贈与税の計算で引ける基礎控除の金額はどちらも110万円で変わりません。
(→どちらであっても、500万円から110万円を引いた390万円に対して贈与税の税率がかかる、ということです。)
「5人からもらってるから基礎控除はそれぞれの分から引けるんちゃうん!?」
とはならないので要注意です!
贈与税の基礎控除は昔は60万円でした、というちょっとマニアックな話は↓こちら。
贈与税基礎控除の変遷。昔は60万円、110万円はいつから?
贈与税の税率は2種類ある
基礎控除を引いたら、残った金額に対して贈与税の税率をかけます。
ここで、上で紹介した数字が入った具体例をもう一度持ってきますが、
【1年間に親から500万円をもらった場合の贈与税】
(5,000,000円(贈与税の課税価格)-1,100,000円(贈与税の基礎控除))×15%-100,000円(税率)=485,000円(贈与税)
これ、「親から」となっているのが実はポイントなのです!
というのも、現在贈与税の税率は2種類あって、
- 特例税率(低い)…20歳以上の人が自分の両親や祖父母など(直系尊属)から一定額以上の財産をもらった場合に適用
-
一般税率(高い)…上に当てはまらない場合に適用
というように、成人した人が両親や祖父母からもらった場合とそれ以外とでは税率が違うんです。
全くの赤の他人からの場合、上の具体例の贈与税の計算は↓こうなります。
【1年間に赤の他人から500万円をもらった場合の贈与税】
(5,000,000円(贈与税の課税価格)-1,100,000円(贈与税の基礎控除))×20%-250,000円(税率)=530,000円(贈与税)
と、税額は45,000円高くなります。
これらの税率の違いについては、「贈与税の税率は2種類。特例贈与財産と一般贈与財産の違いとは」という記事で詳しく解説しています。
以上、ここまで暦年課税の計算方法のアレコレを詳しく解説してみました。
お客さんからよく受ける質問2題
続いては、「お客さんからよく受ける質問シリーズ」として、贈与税に関して私自身がよく聞かれる質問を2つ紹介します。
生前贈与しておけば相続税は絶対にかからない?
まず1つ目は↓こちらです。


たとえ110万円以内の贈与でも、遺産を承継した人が死亡日からさかのぼって3年前の日以降にもらっていた分は「生前贈与加算」として相続税の対象となります。
↑こうお答えすると、皆さんいつもビックリされます(^^;
「どっちも非課税やと思ってたのに!」と…。
ただ、この「生前贈与加算」という規定には細かい要件がいくつかあるので、
単に「相続人だからor相続人じゃないから生前贈与加算の対象or対象外!」というわけではありません。
詳しくは「相続税の生前贈与加算とは?死亡前の贈与財産にも相続税がかかるかも!?」という記事で解説しています。
家族から生活費や入学・結婚資金をもらったら贈与税がかかる?
2つ目は↓こんな質問です。


一部を貯金に回していたら、その金額には贈与税がかかります。
たとえ数百万円という金額でも、家族間で必要な都度行う生活費などの資金援助には贈与税はかかりません。
ただ、もしそれが蓄財につながっているのであれば、その貯めた金額には贈与税がかかりますし、
家族や親族以外の赤の他人からの場合はこのような決まりはありません=もらったお金の全額に贈与税がかかります。
これも要件などを話し出すと長くなるので、「仕送りや入学・結婚資金をもらうと贈与税はかかる?」という別記事でまとめています。
以上、ここまで、「贈与税ってどんな税金?」というところをいろいろと掘り下げてみました!
税務署の着眼点【公表データから見えてくること】
ここからは、国税庁が公表している資料を交えつつ、皆さんの関心も高い(?)贈与税についての税務署の着眼点を紹介していきます。
引用したのは↓こちらのプレスリリースです。
平成27事務年度における相続税の調査の状況について|国税庁
これは、平成27年7月1日から平成28年6月30日までの1年の間に、税務署が相続税や贈与税についての税務調査をした結果、申告漏れを指摘した件数やその金額、財産の種類や追徴した税額などをまとめたものです。
いわば

という、税務署からの生データですね。
このプレスリリースのタイトルは「相続税」となっていますが、贈与税は相続税の補完税なので(←詳しくはリンク先の記事をどうぞ)、一番最後には贈与税についても書かれています。
そして、これを見ていると、贈与税の税務調査について1つのわかりやすい傾向が見えてきます。
それは、贈与税は現金や預貯金の無申告に注意!ということです。
以下、上のページで公表されているデータから特徴的なところをピックアップして紹介します。
無申告を指摘されるケースが多い(全体の約8割)
まず1つ目の特徴として出ているのが、無申告事案の多さです。
- 申告漏れ等の非違件数(=税務調査で申告漏れが指摘された件数)
-
申告漏れ課税価格
これはつまり、税務署から「贈与税ちゃんと払ってや」と言われた人のうち、
「アンタそもそも申告してへんやん」という人の割合が8割を超えている、ということです。
申告漏れ財産の中身は現預金が突出している(全体の約6割)
また、申告漏れが指摘された財産のうち現金・預貯金等の割合が突出して多いのも贈与税特有の特徴です。
全体の約6割とのことですが、↑こうして見るとそれ以上の割合に見えます。
相続税と比べてみたら?→現預金の割合の高さが一際目立つ
この割合を↓相続税と比べてみたらいかに高いかがよく分かります。
相続税の場合も現金・預貯金等が占める割合は全体の中で一番多いですが、それでもせいぜい35%〜40%前後です。
(下の棒グラフの赤色の部分が現金・預貯金等の占める割合です。)
というわけで、ここまでは国税庁の「平成27事務年度における相続税の調査の状況について」というページで公表されているデータから
贈与税の特徴が現れている点を2つピックアップして紹介してきました。
その2点を↓以下に改めてまとめておくと、
- 無申告を指摘されるケースが多い(全体の約8割)
-
申告漏れ財産の中身は現預金が突出している(全体の約6割)
税務署は贈与税については相続税以上に現金・預貯金等の無申告事案を追いかけているというのがよくわかります。
【ただし】贈与税単独での調査はあまり無い
とはいえ。
実は税務署は贈与税だけを単独で調査して追徴することはあまりありません。
贈与税は相続税の税務調査の時にあわせて申告漏れを指摘されるケースが多くて、
↑上で紹介した2つの特徴も、実は

これは贈与税の対象なのでちゃんと申告してください。
というケースが多いことの現れだったりします。
いくら税務署でも、一般人がいつどこでお金をあげたりもらったりしているかまで把握するのは今の制度では不可能ですし…。
【ただし×2】贈与の情報が税務署に行っているケースもあるので注意
ただ、贈与税単独の調査は絶対に無い(=贈与があったことが税務署に絶対にバレない)かといえば、そうとも限りません。
以下のようなケースはその情報が税務署に行っていますので、
適性に申告をしていなければあとで税務署から問い合わせが入る可能性が高いです。
- 不動産の所有権移転登記をした場合
- 自宅の共有持分の割合と住宅ローンの負担割合が一致しない状態で住宅ローン控除の申告をした場合
- 1回100万円を超える額の保険金を受け取った場合
-
保険契約(生命保険など)の契約者を変更した場合
こうしたケースに当てはまる場合、状況次第で、贈与税に限らず相続税や所得税の対象になることもあるので要注意です。
まとめ 申告義務がある方は忘れずに申告を!
以上、この記事では、
- 他人からお金などの財産をもらった場合にかかる税金=贈与税とはどんな税金なのか
-
贈与税の調査状況や贈与税について注意すべき点など、贈与税についての税務署の着眼点
の2点について紹介してきました。
上でも書いたように、一部の場合を除き、贈与税だけを単独で調査して追徴されることはほぼありません。
ただ、もちろんそれも絶対ではありません。
記事中に紹介したプレスリリースの中には↓こんな文言が挙がっていますし、
国税庁では、あらゆる機会を通じて把握した生前の資産保有・移動状況に関する情報を蓄積・活用するなどして、贈与税の無申告事案の積極的な調査に努めています。
今は良くても(?)今後どうなるかはわかりません。
無申告がバレた場合、本来の税額に加えて利子やら罰金やら、余計なお金の負担まで付いてきます。
法律で決められた申告と納税の義務はしっかりと果たすようにしていきましょう。
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税理士・尾藤 武英(びとう たけひで)
過去に税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策など、相続税に関する業務を多数行っています。
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