平成29年度税制改正大綱:相続税・贈与税の注目のポイントは?

【平成29年度税制改正】相続税・贈与税の注目ポイントは?

本日(2016年12月8日)、政権与党から平成29年度の税制改正大綱が公表されました。
平成29年度税制改正大綱 | 政策 | ニュース | 自由民主党

これは、毎年3月に行われている税制改正の来年分のいわば「レビュー」です。
「法律の条文のココが具体的にこう変わるよ!」という発表は改正が行われる直前にしか公表されませんが、それに先んじて、

「来年はこんなところを変えるからそのつもりでいてね!」

という項目を我々に知らせてくれるもので、税理士業界に生きる者にとっては非常に重要な年末の恒例行事です。

毎年膨大なページ数になりますが、今年も全139ページの超大作です。
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/133810_1.pdf

プリントアウトした平成29年度税制改正大綱

両面で印刷してもこの分厚さです(^^;

この量なので、どんな項目が挙がっているのか、全部の税金について書いてしまうとキリがありません。
そこで今日は、この大綱に挙がっている主な改正項目のうち私的に気になったポイントを、相続税や贈与税などのいわゆる「資産課税」に絞って紹介してみます。

この記事を書いた人


税理士 尾藤武英
税理士 尾藤 武英(びとう たけひで)
京都市左京区下鴨で開業している税理士です。
過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
詳しいプロフィール(経歴や活動実績など)
相続税・贈与税のサービス・料金
本記事の内容やテキスト・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
当ブログの運営目的は一般の方への正しい情報の提供です。
同業者等メディア運営者においては以下のページ記載の注意事項を遵守いただくようお願いします。
ブログ運営ポリシー(執筆編集方針、著作権保護のためのプラグインの使用etc.)

1.非上場株式の「類似業種比準価額」の比準要素の割合の変更

1つ目は上場されていない会社の株式(=「取引相場のない株式」)の評価についてです。
改正点はいくつかありますがここでは↑見出しの項目に限ってお話しします。

まずは前提からです。

自分の事業を法人化して営んでいる人が持っている自社の株式は、たとえ上場していなかったとしても、相続税や贈与税の計算上は立派な1つの財産です。
株主に相続が発生したらその株式には相続税がかかりますし、生前に後継者などに株式を引き継がせた場合にはその株式には贈与税がかかります。

そして、上場されていない株式の場合、その株式をいくらで課税するのかの金額(=「相続税評価額」と言います)の計算方法もとても複雑です。

今回、この上場されていない株式の相続税評価額の計算方法の一部について改正が入ることになりました。

改正の内容は?

いろんな算式を組んで株式の評価額を出していく中で、「『類似業種比準価額』の計算」という、「同じ業種の上場会社の株価から評価する会社の株価を導き出す」作業があります。
この作業では、同じ業種の上場会社の株価に対して、評価する会社の過去の「配当金額、利益の額、簿価の純資産の金額」の3つの要素から求めた「比準割合」というものをかけていきます。

今回改正が入るのはこの「比準割合」の中身です。

この「比準割合」、現在は大半の会社で
「配当金額:利益の額:純資産の金額=1:3:1」
の割合で求めていますが、これが
「配当金額:利益の額:純資産の金額=1:1:1」
と、全ての要素が均等な割合で計算を行うことになりました。

この割合は昔は「1:1:1」でしたが、平成12年度の税制改正で現行の「1:3:1」に変更されて以降、ここまでその割合が継続されてきました。
今回の改正でかつての割合に再び戻ることになります。

これまで利益の額を重視して評価額を求めていたものが、他の2つの要素と同じ割合に変更されるので、利益がたくさん出ている会社の株式については、改正前よりも評価額が下がることになります。
(逆に、わざと利益を少なくしてから株式を贈与するなんていう節税も今よりは効果が薄くなりそうです。)

この改正は平成29年1月1日以後に発生した相続や贈与の計算から適用されます。

【上場されていない会社の株式の評価についてのその他の改正項目】

※平成29年1月1日以後適用の項目
・類似業種の上場会社の株価について、現行に「課税時期の属する月以前2年間平均」を加える。
・類似業種の上場会社の配当金額、利益金額、簿価純資産価額について、連結決算を反映させた数字とする。
・評価する会社の規模区分の判定について、大会社と中会社の適用範囲を総じて拡大する。

※平成30年1月1日以後適用の項目
・株式保有特定会社の判定基準となる株式の範囲に新株予約権付社債を加える。

2.タワーマンションの固定資産税、不動産取得税の増税

2つ目は以前から新聞などで話題になっていた項目です。
いわゆる「タワーマンション増税」ですね。

タワーマンションの高層階の部屋を買ったときにかかる「不動産取得税」と、その後持ち続けている間毎年かかる「固定資産税・都市計画税」の2つの税金について、今回増税されることになりました。
(以下、固定資産税に絞っていますが、不動産取得税も同じと考えてください。)

現状では、タワーマンションの各部屋の固定資産税額は、同じ床面積であれば、1階であろうが高層階であろうが全て税額は同じです。
これが取引の実態と合っていないということで、今回、高さが60mを超える建物の高層階の固定資産税額は低層階よりも高く設定されることになりました。

具体的には?

高層階の部屋の固定資産税額は、1階の部屋に比べて以下の割合の分だけ上乗せされることになります。

1階を100%として、階が1つ上がるごとに10/39を加えた割合

つまり、40階の部屋だと、1階の部屋に比べて

(40階-1)×10/39=10%

の割合だけ税額が上乗せされることになります。
マンション全体の固定資産税額は変えずにこの割合で差を付けるとのことなので、40階建てのマンションの場合、中間の階を境にして、高層階は最大5%増税されて、低層階は最大5%減税されるという仕組みのようです。

正直思ったほどのインパクトではないですが、まぁ、いきなりからえげつない改正にはなかなかし辛いでしょうし、こんなものでしょうか。
(ほか、天井の高さなどに著しい差があるときはさらに調整が行われることもあるそうです。)

ちなみに、上の話は固定資産税の税額を直接引き上げるというものですが、「固定資産税評価額」を使って評価する相続税や贈与税の計算は再来年(平成30年)の税制改正で増税される方向で検討中とのこと。
「タワマン増税」の本命はむしろこちらでしょうから、どのように変えてくるのか、来年の大綱の発表が今から興味深いです。
40階は1階の1割高 マンション固定資産税で検討|日本経済新聞
過去記事建物(家屋・倉庫など)の相続税評価の方法【自用・貸家・賃貸割合】

この改正は、平成30年度から新たに課税されるマンション(ただし、平成29年4月1日以後に各部屋の売買契約が開始されるものに限る)から適用されます。

3.広大地評価の評価方法の改正および要件の明確化

周囲に比べて面積が広大な土地、いわゆる「広大地」の相続税評価額の計算方法についても改正が入ります。

「広大地」の相続税評価額の計算というのは、求め方(算式)自体はとても単純ですが、単に面積が大きいだけでは適用ができなくて、要件の面で不透明な部分が多かったのが問題でした。

この広大地評価について、

  • 現行の「面積に比例的に減額する評価方法」から「それぞれの土地の個性に応じて形状や面積に基づいて評価する方法」に評価の方法を見直す
  • 広大地の適用要件を明確化する

という2つの改正が入ります。

一つ目の評価の方法の見直しについては、評価算式を

路線価×面積×広大地の形状を考慮した補正率×面積を考慮した補正率

というようなものに変える方向とのこと。
補正率の設定次第では評価額が大幅に引き上げられそうです。

あと、個人的に注目しているのは2つ目の「広大地の適用要件の明確化」です。

私自身も、過去に担当した相続税の申告では、「面積が大きい土地について広大地評価を適用するかどうか」でずいぶん頭を悩ませてきました。
広大地評価を適用して申告したあとに税務署から「これアカンで」と言われてしまったら数百万円〜数千万円も相続税の負担が増えることにもなりかねず、そのリスクをいかに低くするかが悩みの種でした。

適用要件が明確化されることは、我々税理士はもちろん、税金を払う納税者の方にとってもいい方向の改正だと思います。

この改正は平成30年1月1日以後に発生した相続や贈与の計算から適用されます。
関連記事

その後、広大地評価の改正の内容が明らかになりました。別記事にて詳しく紹介しています。
地積規模の大きな宅地の評価とは?広大地評価からの改正点総まとめ

4.相続税や贈与税の納税義務者の判断基準の改正

4つ目は、
「外国に住んでいる人が外国にある財産をもらっても、日本の相続税や贈与税がかかりますよ」
という人の範囲を広げよう、という改正です。

現状では、外国にある財産を外国に住む人が相続したり贈与されたりした場合、

財産をもらった人が日本国籍を持っていて、過去5年のうちに財産をもらった人、あげた人のどちらかが日本に住んでいたことがある場合

には、国内外問わず世界中の財産に対して日本の相続税や贈与税がかかります。
これに当てはまる人を「非居住無制限納税義務者」と呼んでいます。

今回、この日本での居住期間5年を10年に引き上げることになりました。
つまり、財産をあげた側、もらった側のどちらかが過去10年の間に日本に住んでいたことがある場合には、たとえ相続や贈与の時点で日本に住んでいなかろうが、国内外問わず世界中の財産に相続税や贈与税がかかることになります。

言い換えると、外国にある財産に日本の相続税や贈与税がかからなくて済むのは、原則として、財産をあげた側、もらった側のいずれもが過去10年の間に日本に住んでいた事実が無い場合のみに限られることになります。
(ただし、あげた側について、住んでいたのではなく一時的に滞在していたような場合(国内でプレーする外国籍のプロスポーツ選手など)には国内の財産だけに限定されるという改正も入る予定です。)

この論点は近年改正が多すぎて、正直言って複雑すぎてもはやワケがわかりません。
とりあえずザックリ言ってしまうと、改正後は
「外国にある財産に相続税や贈与税がかからない人はほとんどいない状態」
がさらに加速することになります。

この改正は平成29年4月1日以後に取得する財産にかかる相続税や贈与税について適用されます。

まとめ

以上、今日公表された来年度の税制改正大綱について、様々な項目が挙がっている中でも4つに絞ってその内容を紹介しました。

その他、この記事では省略している相続税・贈与税絡みの改正項目については項目名のみ列挙しておきます。
(難しい言葉が続きますので興味の無い方は流して下さい。)

【非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し】
・納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件の端数処理の見直し。(1人未満切上から1人未満切捨へ)
相続時精算課税制度による贈与を贈与税の納税猶予制度の適用対象に加える。
・非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予制度における認定相続承継会社の要件の一部撤廃。
※平成29年1月1日以後開始の相続税・贈与税について適用。(経過措置あり)

【相続税の物納に充てることができる財産の順位の変更】
現状第3順位となっている株式、社債などのうち金融商品取引所に上場されているものを第1順位に引き上げるとともに、物納財産の範囲に投資証券等のうち金融商品取引所に上場されているものなどを加え、これらについても第1順位とする。
※記載がなかったため開始時期については不明

【医療法人の持分なし法人への移行に伴う課税の特例】
・一定の要件を満たす持分の定めのある医療法人から持分のない医療法人への移行に伴いその医療法人が受けた経済的利益については、贈与税を課さないこととする。
・医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等の適用期限を3年延長する。
※いわゆる「平成18年医療法等改正法」の改正を前提として適用。

【災害関連】
阪神淡路大震災や東日本大震災級の大規模災害への税制上の対応の規定が常設化されることとなり、相続税や贈与税についても様々な規定について一定の優遇措置が講じられる。
※平成29年1月1日または4月1日以後開始の相続税・贈与税について適用。

ほか、資産課税以外に目を向けてみても、所得税の配偶者(特別)控除の38万円の対象者の拡大など、話題の改正項目はまだまだたくさんあります。
それらの内容は…どうせ他の税理士がたくさんブログ記事にしてくれると思うので、そちらにお任せします(^^;

大綱自体を読んでみたいという方は是非原文にも目を通してみてくださいね。
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/133810_1.pdf

関連記事

 相続税や贈与税でお困りの方へ
弊所では代表税理士がすべての業務を直接担当。
税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験を活かし、わかりやすいアドバイスでお困りごとを解決します。 相続税・贈与税でお困りの方へのサービス

この記事をシェアする

この記事を書いた人

税理士 尾藤武英

税理士 尾藤 武英(びとう たけひで)
京都市左京区下鴨で開業している税理士です。
過去に税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
詳しいプロフィール(運営者情報)を見る
税理士業の日常を綴るブログ