昨日(2017年12月14日)、政権与党から平成30年度(2018年度)の税制改正大綱が公表されました。
平成30年度税制改正大綱 | 政策 | ニュース | 自由民主党
税制改正大綱とは、毎年翌年3月に行われる税金に関する法律の改正の概要をまとめたものです。
法律の条文自体が具体的にどう変わるかはまだわかりませんが、それに先んじて、
「来年はココをこう変えるんで、そのつもりでいてね!」
という項目をざっくりと列挙してくれています。
税理士業界に生きる人間にとっては大変重要な、年末の「ビッグイベント」の1つです。
毎年膨大なボリュームで、今年も全134ページの超大作(?)となりました。
…と、ここまでは去年の税制改正大綱の記事とほぼ同じ出だしです(^^;
昨年に引き続き、今年もこのサイトでは、この大綱に挙がっている主な改正項目を、相続税と贈与税に絞って紹介していきます!
重要性の高い項目に絞ると、来年は2つの大きな改正が入りそうです。
- 平成31年度の税制改正大綱の内容は以下の記事で解説しています。
【平成31年度税制改正】相続税・贈与税の改正ポイント総まとめ - 平成30年7月に成立・公布された民法(相続法)の改正項目の解説はこちら。
2019年からの民法(相続法)改正。6つのポイントを徹底解説
この記事を書いた人
過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
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このページの目次
1.事業承継税制の拡充(自社株式に対する相続税や贈与税の納税猶予制度の特例の創設)
1つ目は「事業承継税制の拡充」。
具体的には、自分が経営している会社の株式(自社株式)の後継者への承継に関する特例の創設です。
今も制度自体は設けられているものの…
実は、「事業承継税制」自体は既に制度として設けられています。
「非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例」というのがそれで、
上場されていない自社の株式を、事業承継を目的として、先代経営者から後継者へ相続・遺言・贈与で引き継がせる場合に、それに伴って発生する相続税や贈与税の一部の納税を猶予(のち、問題が無ければ最終的には免除)しよう、というものです。
ただ、この特例は、受けるため(申告まで)、そして、受け続けるため(申告した後)の要件が大変厳しく、
納税猶予が途中で打ち切りになった場合の納付のリスクも大きいことから、
平成20年の制度創設以降も適用件数はなかなか伸びていませんでした。
(創設後平成28年3月までの約8年間で全国で1,500件程度)
事業承継を税制面から支援するためにせっかく作った制度なのに全然利用されていない。
こうした現状を打破すべく、今回、この制度が10年間の期間限定で抜本的に拡充されることになりました。
どう拡充される?
拡充の主な内容を以下に順に列挙してみます。
1:納税猶予の対象となる株式数を「発行済株式の全株」とする
(現状:発行済株式数の2/3が上限)
2:相続税について、株式に対応する税額の全額を納税猶予の対象とする
(現状:税額の8割だけが対象。(贈与税は現状から全額が対象です))
上記1、2により、相続税については、これまで発行済株式全体に対する税額の約半分(2/3の80%)しか納税猶予の対象となっていなかったものが、100%納税猶予の対象となることになります。
以下の3、4も納税猶予の適用の対象を増やす目的での措置です。
3:納税猶予を受けることができる後継者を最大3名に増加
(現状:受けることができる後継者は1人に限る)
4:申告期限後5年の間に先代経営者以外の人から承継する自社株式も納税猶予の対象とする
(現状:対象となるのは先代経営者からの承継のみ)
下記5、6は、一旦納税猶予の適用を受けた後に
・その猶予が打ち切られるリスク
・打ち切られた場合の納付税額が多額になるリスク
を緩和させるための措置となっています。
5:「申告期限後5年間、雇用の8割を維持せよ」とする要件を撤廃
(現状:5年間の平均で雇用の8割を維持できなかった場合、その時点で「納税猶予は打ち切り=利子も含めた全額が納付」となる)
6:申告期限から5年を経過した後に経営状態の悪化などを理由に自社株式を手放す場合、納税猶予税額の一部が免除される
(現状:理由を問わず、途中で手放した場合にはそれに対応する税額が全額納付の対象に)
【その他の拡充内容(新設)】
・贈与者の推定相続人以外の後継者の一部が受ける贈与について、相続時精算課税の選択を可能とする
発行済株式の全株に対応する税額全額が対象、というのはなかなか思い切った改正ですね。
(ただ、それだけ途中で打ち切りになった場合のリスクも大きくなるわけですが…。)
認定支援機関をここで使うか!
1つ注意点を挙げるとすれば、これらの拡充を受けるためには認定経営革新等支援機関(以下「認定支援機関」と略します)のサポートが必要となるという点です。
認定支援機関による「特例承継計画」の作成や意見の記載など、要所要所で認定支援機関の出番が必要とされています。
制度の拡充が租税回避に利用されないように、ちゃんとした(?)機関によるモニタリング機能を入れようということでしょうか。
個人的には
「もはやあってもなくても一緒な認定支援機関をここで使ってきたか〜」
という感じです。
(ほか、適用の前提となる「認定支援機関が作成した『特例承継計画』の都道府県への提出」については、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に行う必要あり)
2.小規模宅地等の減額の特例の要件の一部見直し
2つ目は、「小規模宅地等の減額の特例」についてです。
「小規模宅地等の減額の特例」ってのが一体どんな規定なのかというと、
- 亡くなった方の遺産の中に、亡くなった方やその方と生計を一(いつ)にしていた親族の「生活の基盤」となっていた土地があって
- その土地が、その土地を承継した親族の「生活の基盤」にもなっている場合に
-
その土地について相続税の評価額を最大8割減額する特例制度
です。
評価額を8割も減額するというのはかなりインパクトが強いので、
この特例も、上の「事業承継税制」に負けず劣らず(いや、さすがに上のには負けるかな(^^;)、いろいろな要件を満たす必要があります。
今回、その要件の一部が厳しくなります。
主なポイントは以下の2つです。
1:別居親族の「特定居住用宅地等」の対象者の範囲
亡くなった方が生前住んでいた自宅の土地について、その土地を承継した親族が決められた要件を満たせば、「特定居住用宅地等」として、330㎡を限度として8割の減額を受けることができます。
これは、亡くなった方の死亡時点で亡くなった方と別居していた親族についても受けられます。
ただし、その場合にはいろんな要件をくぐり抜ける必要がありまして、今の決まりは↓こうなっています。
【現状の要件】
- 亡くなった方の自宅の土地を承継し、相続税の申告期限(亡くなってから10ヶ月後)まで引き続き持ち続ける
- 亡くなった時からさかのぼって3年以内に、土地を承継した方またはその配偶者が日本に持っている家屋に住んだことがない
(ただし、もし住んだことがあっても、その家に死亡当時亡くなった方が住んでいた場合は「住んだことがない」としてOK) -
亡くなった方の配偶者や同居していた相続人がいない(=本来その土地をもらうべき人がいない)
とまぁ、現状でもかなりややこしいわけですが…。
ただ、微妙に表現が正しくない(あくまでも「住んでいたかどうか」が問題)ので、私自身は使っていませんが…。
これが改正後は↓こうなります。(赤字の部分が大綱に記載されている内容です。)
【改正後の要件】
- 亡くなった方の自宅の土地を承継し、相続税の申告期限(亡くなってから10ヶ月後)まで引き続き持ち続ける
- 亡くなった時からさかのぼって3年以内に、土地を承継した方またはその配偶者、その方の3親等内の親族、その方と特別の関係がある法人のいずれかが日本に持っている家屋に住んだことがない
(ただし、もし住んだことがあっても、その家に死亡当時亡くなった方が住んでいた場合は「住んだことがない」としてOK) - 土地を承継した方が、亡くなった方の死亡当時に自分が住んでいる家屋を過去に持っていたことがない
(=「この家、5年前に他人に売ったけどその前はワシのでしてん」という状態はアウト) -
亡くなった方の配偶者や同居していた相続人がいない(=本来その土地をもらうべき人がいない)
…ややこしすぎでんがな。
なぜこんな改正が入るのかというと、
元々自分が持っていた家屋を事前に親族などに売り払うことにより、わざと「持ち家なんて持ってませんよ〜♪」という状態にしてこの特例の要件を満たそうとする人がたくさん出てきたからなんだとか。
そんなんよく考えるよなぁ、って感じですが…。
2:不動産賃貸業を営む人の「貸付事業用宅地等」の範囲
2つ目は、1つ目よりも影響が出る件数自体は多そうな改正です。
不動産賃貸に使われている土地について200㎡を限度として5割の減額が受けられる「貸付事業用宅地等」について。
この対象から、亡くなった時からさかのぼって3年以内に貸付を開始した土地が除かれることになります。
ただし、従前から事業的規模で貸付事業を行ってきた方(青色申告で65万円控除を受けているような方)についてはこの制限の対象外です。
つまり、「亡くなる直前の駆け込み対策として突発的に不動産賃貸に手を出す」という節税策を封じるための改正というわけですね。
私は不動産をお持ちの方と関わる機会が多いので、この改正はしっかりと頭に入れておきたいところです。
【「小規模宅地等の減額の特例」に関するその他の改正内容】
・死亡当時介護医療院に入所していたことにより住んでいなかった自宅についても、住んでいたものとして特定居住用宅地等の適用を可能とする。
※平成30年4月1日以後取得の財産にかかる相続税について適用
その他の改正項目(項目のみの列挙です)
ここまで、昨日公表された来年度の税制改正大綱について、
様々な項目が挙がっている中でも主に2つに絞ってその内容を紹介しました。
他にも、相続税贈与税絡みの改正項目はたくさんあります。
ただ、どれも一般の方にとっては重要性が低いor税理士向けのマニアックな論点ばかりなので、それらについてはこの記事では項目名の列挙のみで留めます。
(以下、難しい言葉が続きますので興味の無い方は流して下さい。)
外国人出国後の相続税・贈与税の納税義務の見直し
日本に長期間滞在していた外国人が出国後に行った相続や贈与について、原則として国外財産を相続税や贈与税の対象から外す。
(現状:過去10年の間に日本に住んでいれば、国内国外問わず全ての財産に相続税・贈与税が課税される)
※平成30年4月1日以後取得の財産にかかる相続税・贈与税について適用
相続税の申告書への添付書類の拡大(コピーや法定相続情報一覧図の添付がOKに)
相続税の申告書の添付書類として提出できる書類の範囲に、戸籍謄本を複写したもの等、被相続人の全ての相続人、法定相続分や実子・養子の別を明らかにする書類を加える。
※平成30年4月1日以後に提出する申告書について適用
「戸籍謄本は原本じゃなくてコピーでも可」
ということのようですね。
最初、今年から導入されている「法定相続情報一覧図」を相続税の申告書に添付できる、という意味なのかと思いましたが、どうやらそういうわけではなさそうです。→【追記】そういうことになりました。
平成30年4月1日から、「法定相続情報一覧図」の相続税の申告書への添付が可能となっています。
関連記事法定相続情報一覧図が相続税申告書に添付可能に!
一般社団法人・一般財団法人を利用した租税回避行為への対応
・一般社団法人や一般財団法人に対する贈与税・相続税の課税基準の明確化
・特定の一般社団法人等の同族理事が死亡した場合、その理事に対応する純資産額を一般社団法人等が遺贈で取得したとして相続税を課税する
※平成30年4月1日以後(同日前に設立されている法人については平成33年4月1日以後)の同族理事の死亡にかかる相続税について適用
その他
・特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度の創設
・農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予の要件の一部見直し
・相続財産を贈与した場合の相続税の非課税制度の対象法人の一部見直し
大綱の全文はこちらのリンク先からどうぞ
ちなみに、この記事で紹介している大綱の全文は↓以下のアドレスにupされています。
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/136400_1.pdf
税理士であっても全部を読むのはなかなかしんどい分量ですが、興味がある方は是非目を通してみてください(^^
- 平成31年度の税制改正大綱が公表されました。その内容を解説しています。
【平成31年度税制改正】相続税・贈与税の改正ポイント総まとめ - 平成30年7月に成立・公布された民法(相続法)の改正項目の解説はこちら。
2019年からの民法(相続法)改正。6つのポイントを徹底解説 - 前年度の大綱の内容はこちら
【平成29年度税制改正】相続税・贈与税の注目ポイントは?
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より詳しい解説は以下の過去記事をどうぞ
相続税の小規模宅地等の特例とは?制度の概要や要件をわかりやすく解説