このサイトでは、別記事で、家屋や倉庫など、いわゆる建物の敷地として使われている土地=「宅地」の相続税評価の方法を確認してきました。
では、その宅地の上に建っている建物自体の評価はどうすればいいの?というのがこの記事の内容です。
建物の相続税評価の方法は宅地に比べるととても単純です。

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このページの目次
建物の評価方法の「キホンのキ」【自用の場合】
まずは一番オーソドックスなパターンから見ていきましょう。
建物を持っていて、それを自分で使っている(=自用している)場合の相続税評価の方法は↓これ1つです。
建物の固定資産税評価額×1.0
つまり、毎年市町村などから建物の所有者に対して送られている「固定資産税納税通知書」の中に書かれている、「固定資産税評価額」の金額がそのまま建物全体の相続税評価額になります。
一般に、建物の固定資産税評価額は実際に取得に要した金額からかなり割り引かれた金額で設定されることが多いです。
(40%〜70%ぐらい)
巷でよく
「マンションを買うと相続対策になります!」
と言われているのは、現金から建物に財産の種類を変えるだけで相続税評価額を30%から60%も減らすことが可能になる(さらに、他人に貸している場合には↓次に挙げている評価減も適用される)からなんですね。
2020年4月から「配偶者居住権」が相続財産として扱われることになりました。
「配偶者居住権」の相続税評価は、上で紹介した建物の相続税評価額を基に行います。
そのやり方の詳細は↓こちらの記事で解説しています。
配偶者居住権の相続税評価の方法を徹底解説
貸家=他人に貸している場合は評価額が下がる
では、建物が賃貸借の目的になっている場合、つまり、貸家の場合にはどう評価するのでしょうか。
宅地同様建物についても、それが賃貸借の目的になっている場合には、
- 借り手側に「借家権」
-
貸し手側に「貸家」
という権利が発生します。
ただし、借り手側の権利(借家権)については、通常は相続財産として評価をする必要はありません。
私も今事務所と自宅を家主さんから賃借していますが、
もし私が今死んでも、事務所や自宅の賃借権は相続税の課税の対象にはならない、ということです。
ですので、ここでは貸し手側の権利(貸家)の評価方法のみをご紹介します。
評価算式は?
貸家の評価算式は文章で表すと↓こうなります。
建物全体の評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
まずは普通に建物全体の評価額を求めて(一番最初に紹介した「建物の固定資産税評価額×1.0」ってやつです)、
それに「(1-借家権割合×賃貸割合)」という割合をかけます。
借家権割合というのは0.3で固定です。
また、「賃貸割合」という言葉はここで初めて出てきましたが、
「建物の各独立部分の床面積の合計のうち、評価の時点で他人に賃貸している部分の床面積が占める割合」
を表します。
(詳しくはのちほど)
数字を当てはめると?
固定資産税評価額が1,000万円、各独立部分の床面積の合計が500㎡のマンションを他人に賃貸していた場合、
実際の算式は次のようになります。
- 【マンションの全室が埋まっている場合】
10,000,000円×(1-0.3×500㎡/500㎡)=7,000,000円 -
【マンションの20%(500㎡のうち100㎡)が空室である場合】
10,000,000円×(1-0.3×400㎡/500㎡)=7,600,000円
このように、上に建っている建物が集合住宅(マンションやアパートなど)の場合、
全室埋まっているのか、または一部空室があるのかで評価方法と評価額が変わります。
見比べて頂いたら、2つ目の方(=一部空室がある方)が評価額も若干高くなっています。
実際に貸し付けている部分だけ評価額を3割落とす、という算式なので、空室部分は貸し手側に権利が丸々残る形になります。
この調整をしているのが賃貸割合です。
上の具体例でいうと、500㎡/500㎡とか400㎡/500㎡という部分です。
賃貸割合とは?
賃貸割合とは、さきほど
「建物の各独立部分の床面積の合計のうち、評価の時点で他人に賃貸している部分の床面積が占める割合」
を表す、と書きました。
もう少しわかりやすく言い換えると、
建物が集合住宅(マンションやアパートなど)である場合に、
相続開始時点でそのうち実際に賃貸している(部屋が埋まっている)部分の割合を言います。
これを適用することにより、
もし集合住宅の一部に「空室=賃貸していない部屋」があったときは、
その部分は貸家評価(自用家屋×(1-0.3))はできず、自用家屋評価となってしまいます。
相続があった前後だけ一時的に空室なら自用家屋評価ができる
が、相続開始時点で空室であれば即自用家屋評価!となってしまうかといえば、そうとは限りません。
今(3月)はちょうど卒業&入学のシーズンなので、賃貸物件も入れ替わりが激しい時期ですよね。
今見てきたように、建物については貸しているのかいないのかによって評価額が変わってきます。
賃貸していれば7掛けで済みますが、賃貸していなければ評価額の全てが貸し手側の財産に。
では、集合住宅のオーナーに相続が発生した場合で、相続があった前後だけたまたま空室だった部屋があるときは、その部屋はやはり賃貸していないものとして評価しないとダメなんでしょうか?
その場合、↓このような取り扱いが認められます。
賃貸割合は、原則として、課税時期において実際に賃貸されている部分の床面積に基づいて算定しますが、一時的に空室となっている部分の床面積を実際に賃貸されている部分の床面積に加えて算定して差し支えありません。
※「一時的に空室となっている部分」の範囲
その部分が、
(1)各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、
(2)賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、
(3)空室の期間、他の用途に供されていないかどうか、
(4)空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、
(5)課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか
などの事実関係から総合的に判断します。
つまり、相続が発生したその時だけたまたま空室だったというような場合には、そのたまたま空室だった部分も「賃貸している」と考えて賃貸割合を計算してもOK!ということです。
税金を払う側にとっては有利な取り扱いになりますね。
一軒家では賃貸割合は使えません
さらに細かい話をすると。
この有利な取り扱いが認められるのはあくまでもマンションやアパートなどの集合住宅の場合のみです。
集合住宅ではなく一軒家を貸している場合、建物の貸付先は1人なので、賃貸割合という概念自体が存在しません。
ですので、一軒家については、
たとえそれが一時的なものであったとしても、相続開始時に空室の場合には問答無用で自用家屋評価となるので、ここは間違いの無いようにお願いします!
貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価|国税庁
建物(家屋・倉庫など)の相続税評価の方法のまとめ
以上、この記事では建物の評価方法の原則的な取り扱いを紹介しました。
基本の算式は
建物の固定資産税評価額×1.0
ですが、
というのがお分かりいただけたかと思います。
しかし。建物の評価はこれだけでは終わりません。
続きの記事では、この記事の内容を踏まえて
「こういう場合は、建物であっても固定資産税評価額だけじゃダメなんですよ」
という例を紹介します。
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税理士・尾藤 武英(びとう たけひで)
過去に税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策など、相続税に関する業務を多数行っています。
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