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相続税贈与税は2024年からどう変わった?改正点をわかりやすく解説

2024年から相続税と贈与税はこう変わる〜令和5年度税制改正を解説〜

2024年から相続税・贈与税に大きな改正が入っています。

数年前から「いつかはやるでー」と税制改正大綱で明記されていた
「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築(≒相続税と贈与税の一体化)」
がついに今年から動き出すことに。

また、居住用のマンションを利用した過剰とも言える相続対策に「待った」をかける目的で、
居住用マンションの相続税評価額の計算方法(≒相続税・贈与税の課税上の評価方法)についても見直しが入りました。

今回の改正によって大きく変わったのは以下の3つです。

いずれも2024年(令和6年)以降の相続贈与から改正後の内容が適用されています。
この記事では、これらの内容を詳しく解説します。

この記事を書いた人


税理士 尾藤武英
税理士 尾藤 武英(びとう たけひで)
京都市左京区下鴨で開業している税理士です。
過去に税理士試験の予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
詳しいプロフィール(経歴や活動実績など)
相続税・贈与税に関するサービス
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1.相続時精算課税制度の使い勝手の向上

まず1つ目は、相続時精算課税制度についてです。

相続時精算課税がどんな規定なのかは「相続時精算課税制度とは【要件・手続き・デメリットを解説】」という別記事で詳しく解説しています。
(ここがあやふやな方はまずは↑この記事をお読みください)
が、↑タイトルに「デメリット」と入れてしまうぐらい、使い勝手の悪い制度として有名です(^^;

この相続時精算課税制度について、
「少しでもそのデメリットを解消して使い勝手を良くしよう!」というわけで、以下の2つの改正が入りました。

基礎控除110万円の創設

まず1つ目は、相続時精算課税独自の基礎控除(110万円)の創設です。

改正の背景(改正前の問題点)

改正前、相続時精算課税制度には暦年贈与のような基礎控除はありませんでした。
なので、この制度を選んだ場合、たとえもらった金額が1円であっても、
対象の贈与者から財産をもらった年には必ず贈与税の申告が必要
でした。
該当の解説ページはこちら

改正の内容

年間110万円までは申告不要とする基礎控除が新設されました。
また、この基礎控除はその後の相続の際にも適用され、
相続税の課税対象は基礎控除後の残額のみ(=年間110万円を超える部分として過去に贈与税の申告をしていた部分のみ)でOKとなります。

暦年贈与が基礎控除内の金額も相続税の課税対象としている(詳しくは別記事にて)のに対し、
精算贈与の基礎控除は相続税の課税対象からも外せるということで、
暦年と精算で違いを設けてきました。

びとう
基礎控除を設けた意図は「こうすれば金額の細かい贈与を申告する手間も省けるでしょ?」って感じだと思うんですが、それであれば、個人的には暦年贈与も基礎控除内は加算対象外にして欲しいのですが…。
この改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に贈与される財産について適用されます。
(=2023年までの贈与に対しては現状の「たとえ1円であっても申告が必要+相続税の課税対象」は変わらず適用される)

精算贈与後に災害で被害を受けた土地建物への配慮

2つ目は、精算贈与で取得した土地建物が災害にあった場合の相続時の配慮です。

改正の背景(改正前の問題点)

従来からある相続時精算課税の大きなデメリット(になりうる特徴)の1つとして、
「贈与時の価値相当額で相続税が計算されること」があります。

贈与時から相続時までにその財産の価値が上昇している場合はオイシイんですが、
その逆のケース、つまり相続時に価値が下がっている場合でも、足すのはあくまでも贈与時の値段です。
これは極端な話、たとえ使い込んだり火事で燃えたりなどで相続時にその財産が無くなっていようが、その財産があるものとして、贈与時の値段で足されてしまうということです。

  • 一度選択すると撤回できない
  • (何十年前であろうが)選択後のすべての贈与財産が相続財産に足される

という精算贈与の他の特徴とも相まって、相続時精算課税は時の経過とともに価値が変動するリスクのある財産(株式や不動産)には向かないという面がありました。
該当の解説ページはこちら

改正の内容

この取り扱いについて、
災害で一定の被害を受けた土地建物については、相続税の課税対象額(=贈与時の価値相当額)からその被害相当額を減額できることとなりました。

びとう
逆にいえば、2023年まではたとえこういうことがあっても贈与時の価額で相続税が課税されてしまっていたんです。

ただ、この改正の対象はあくまでも「災害で被害を受けた土地建物」限定なので、
単に「地価が下がった」とか「火の不始末で燃えた」「使い込んで無くなった」なんてケースへの手当ては引き続きありません。
資産価値が目減りした場合のリスクが完全になくなるわけではない点には要注意です。

この改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に生ずる災害で被害を受けた場合に適用されます。
(=贈与を受けた時期は問わない(贈与年が2023年以前でも対象となる))

以上が1つ目の柱、相続時精算課税制度の改正点2点の紹介でした。
これらの点について国税庁が公表している解説図表も↓以下に載せておきますので、参考にされてみてください。

2024年からの相続時精算課税の改正イメージ

引用元:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし | 国税庁

 

2.相続税の生前贈与加算年数の延長(3年から7年へ)

2つ目の柱は、暦年贈与を選択していた場合に適用される相続税の生前贈与加算についてです。

生前贈与加算については「相続税の生前贈与加算とは?死亡前の贈与財産にも相続税がかかるかも!?」という記事で解説しています。
(「よー知らん」という方はまずは↑こちらをどうぞ)

この生前贈与加算について、改正前は「相続開始日(=亡くなった日)前3年以内」とされていた加算対象期間が7年に延長されました。
ただし、今回延長される期間中(4年前〜7年前)に贈与された財産については、その金額のうち100万円を除いた残額のみが加算の対象とされます。

2024年からの生前贈与加算の改正イメージ

引用元:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし | 国税庁

適用開始は2024年(令和6年)1月1日以降の贈与から

ここで押さえておきたいのは、いつから7年に延長されるのかという点です。
この改正は2024年(令和6年)1月1日以後に贈与する財産にかかる相続税で適用があります。
つまり、わかりやすく言い換えると

  • 相続開始日が2027年(令和9年)1月1日より前の場合
    …今と変わりなし(3年内に贈与を受けた財産のみを加算)
  • 相続開始日が2027年(令和9年)1月2日〜2030年(令和12年)12月31日の間の場合
    …3年内の贈与財産に加えて、2024年1月1日以後に贈与を受けた財産のうち合計100万円超の金額を加算
  • 相続開始日が2031年(令和13年)1月1日より後の場合
    …3年内の贈与財産に加えて、4年前から7年前の間に贈与を受けた財産のうち合計100万円超の金額を加算

このように、改正前(=2023年まで)の贈与財産が3年を超えて加算されることがないよう、段階的に7年に引き上げられていく予定です。
(わかりやすく書いたつもりが逆にややこしい??(笑))

びとう
とりあえず、2027年以降に相続がある場合は現状の3年では収まらなくなる(そして2031年には完全体(?)へ)ということです。
生前贈与加算を避ける目的で相続対策をするなら早めの対応は必至でしょうか…。

【ここまでのまとめ】改正を受けての精算贈与と暦年贈与の違い

今回の改正を受けて、相続税の課税対象となる財産について精算贈与暦年贈与では以下の表のような違いが生じることとなりました。

  • 精算贈与
    制度を選択した年分以後すべての贈与財産が相続税の課税対象。
    ただし、2024年分以後については各年分の基礎控除額(110万円)を控除した残額のみでよい
  • 暦年贈与
    生前贈与加算は相続開始時から過去最大7年(2031年以後は7年)分が対象。
    各年分の基礎控除内の金額も加算の対象となるが、改正で延長された4年間に贈与を受けた財産は総額100万円までは加算されない

太字が今回の改正により変更された部分です。
なんだかめっちゃややこしくなりましたが、それぞれの制度の取り扱いの違いをしっかりと把握しておきたいところです。

びとう
そして、今回の精算贈与の改正により、

  • 基礎控除相当額の相続税課税なし
  • 土地建物限定とはいえ、災害を受けた場合相続税で課税される金額が減免される

これら2点の「精算贈与にあって暦年贈与にないおいしいポイント」が誕生することになりました。
「資産移転の時期の選択により中立的な税制」として精算贈与を推したい、という財務省の意図が垣間見える差別化…なんでしょうか??

 

3.マンションの相続税評価の適正化

また、2024年1月からは居住用の区分所有マンションの相続税評価額の計算方法(≒相続税・贈与税の課税上の評価方法)にも見直しが入りました。

改正の背景(改正前の問題点)

市街地にある居住用の区分所有マンションについては従来

としてきましたが、かねてより、これらの方法で算出した相続税評価額と一般市場における売買価格との乖離が指摘されており、これを利用した過剰とも言える相続対策が問題となっていました。

改正の内容

そこで、一定の要件に当てはまる居住用マンションについて相続税評価額が最低でも市場価格の6割となるよう、評価方法が改正されました。

具体的には、建物部分・敷地部分ともにそれぞれ以下の算式を組みます。

  • 建物部分…従来の建物部分の評価額×区分所有補正率
  • 敷地部分…従来の敷地部分の評価額×区分所有補正率

「区分所有補正率」とは?

「区分所有補正率」は以下の3つの区分ごとにそれぞれ定められています。

【区分所有補正率】

  1. 評価水準<0.6の場合…評価乖離率×0.6
  2. 0.6≦評価水準≦1の場合…補正なし(従来の評価額でOK)
  3. 1<評価水準の場合…評価乖離率

また、↑で登場する「評価水準」「評価乖離率」の意義は以下のとおりです。

  • 評価水準…従来の方法で求めた評価額が想定される市場価格と比べてどれだけ低いかを表す値
  • 評価乖離率…評価水準の逆数。つまり、想定される市場価格が従来の方法で求めた評価額と比べてどれだけ高いかを表す値
    評価乖離率が2(=評価水準は0.5)ということは従来の評価額が市場価格の半分しかない、ということ。
    逆に、評価乖離率が0.8(=評価水準は1.25)ということは従来の評価額が市場価格を25%上回っている、ということ。
びとう
評価乖離率の方が重要(というかこっちを押さえた方が早い)のでそっちだけ太文字にしました。
「評価(が想定市場価格とどれだけ)乖離(しているか表す)率」ということですね。

話を「区分所有補正率」に戻しますと、
これを最後に乗じるということは、評価乖離率の数値に応じた以下の態様ごとに、それぞれの方法で、従来の方法で求めた建物・敷地の相続税評価額を調整する(引き上げるor引き下げる)ことを意味します。

【区分所有補正率の考え方】

  1. 「評価水準<0.6」=評価乖離率が高い(1.667以上)
    →従来の評価額が想定市場価格とかけ離れている(=安い)ので、区分所有補正率(この場合は「評価乖離率×0.6」)をかけて想定市場価格の60%まで相続税評価額を引き上げる

    【例】想定市場価格が2,000万円のマンションについて従来の評価額が1,000万円になる場合、評価水準は0.5、評価乖離率は2となる。
    「1,000万円×2×0.6=1,200万円」と、従来より200万円評価額が引き上がる

  2. 「0.6≦評価水準≦1」=評価乖離率はそこそこ(1〜1.666の間)→何もしない
  3. 「1<評価水準」=評価乖離率が低い(0.999以下)
    →従来の評価額が想定市場価格より高いので、区分所有補正率(この場合は「評価乖離率」)をかけて想定市場価格まで相続税評価額を引き下げる

評価乖離率がそこそこの場合は「何もしない」結果となりますが、一般的に多いと思われるのは❶の「評価乖離率が高い」ケースです。
この場合、従来よりも評価額が引き上がることとなります。

↓下に国税庁が公表する資料に掲載されているイメージ図を引用してみます。(ピンクとブルーの色は私が加えました)

マンションの評価方法の見直しのイメージ(国税庁公表)

引用元:マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について(令和5年6月30日付)| 国税庁

ピンク色になっている層が上の赤枠ボックスで言うところの❶で、右端のブルーになっている層が❸です。
これらの修正を加えることで、評価額がグラフ上のオレンジのラインに収まるよう調整していきます。

「評価乖離率」は4つの指数から算定する

先述のとおり、今回の改正のキモは「評価乖離率」です。
ではその評価乖離率はどうやって求めるのでしょうか?
実は↓こーんな算式を組みます。

評価乖離率

引用元:国税庁パンフレット「「居住用の区分所有財産」の評価が変わりました」

なんだかごちゃごちゃした算式で頭に全然入ってきませんが(私も最初はそうでした(^^;)、要約すると↓こういうことです。

【評価乖離率の算式の意味】

評価しようとするマンションの

  1. 築年数が新しいほど
  2. 総階数が高いほど
  3. 所在階が高いほど
  4. 部屋の専有面積に占める敷地面積の割合が低い(≒建物が高層である)ほど

評価乖離率は高くなる
→この改正の適用リスクが上昇する(=以前より相続税評価額が引き上げられる可能性が高い)

タワマンに限らず&場所を問わず補正の対象になりうる【詳しくは別記事にて】

今回の改正は「タワマン増税」と言われるように、一般的には「都市部のタワーマンションが対象」というイメージが強いのですが、
上の❶〜❹の1つでも当てはまる居住用の区分所有マンションをお持ちの方は、場所を問わず要注意です。

2024年タワマン節税改正の影響は京都市内や滋賀県内にも及びます」という別記事では、
私が過去に相続税の申告などで目にした居住用マンションの情報を用いて、
今回の改正の影響は東京や大阪だけでなく(タワマンなんてない)我が地元・京都市内や滋賀県内にまで及ぶんですよ、という点を解説しています。

“タワマン節税”改正の影響は京都市内や滋賀県内にも及びます
びとう
私は京都の税理士ですが、「高層マンションが少ない」というイメージの強い京都ですら、この改正が適用されてしまう物件はかなり多いです。
(詳しくは↑上の記事を見てみてください)

国税庁からエクセルの計算ツールが公開済み=計算自体は簡単です

なお、「評価乖離率」の算式自体は複雑ですが、実際の評価はそこまで手間ではありません。

というのも、今回の改正に伴い「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」という書類が新設され、
上のリンク先のページにはExcelの計算ツール↓まで用意されているからです。
居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書(令和6年1月1日以降用)【計算ツール】(Excelファイル/25KB)

しかも、築年数・総階数・所在階・建物の専有部分の面積・敷地面積など、計算に必要な情報はマンションの登記事項証明書から拾うだけでOK。

区分所有補正率はマンションの登記事項証明書から数字を拾うだけで計算可能

引用元:国税庁パンフレット「「居住用の区分所有財産」の評価が変わりました」

マンションの登記事項証明書が読める方であれば、上のExcelに放り込むだけで↓このような計算明細書が簡単に(?)作れます。
居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書

びとう
このマンションは評価乖離率が約2.5(=市場価格が従来の評価額の2.5倍高い)なので区分所有補正率は約1.5(2.5×60%)となっています。
(ちなみにこちらも所在は京都市内です)

評価自体カンタンとなれば、あとは気付くか気付かないかだけの世界となりそうですね。
(気付いた方が評価額が上がってしまうのがなんとも悲しいですが…(^^;)

今回の改正については国税庁HPの以下のページに様々な情報が掲載されています。
気になる方は是非目を通してみてください。
No.4667 居住用の区分所有財産の評価|国税庁

 

2024年からの相続税贈与税改正のまとめ

以上、この記事では「相続税と贈与税は2024年(令和6年)からこう変わった!」と題して、
2024年1月から適用が開始されている相続税・贈与税の改正項目を詳しく解説してみました。

最後にもう一度、今回の改正の3つの柱を紹介しておきます。

これらのうち最初の2つは、冒頭にも書いたように、ここ数年の税制改正大綱で「いつかはやるでー」と明記されていた
「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築(≒相続税と贈与税の一体化)」
への第一歩と呼べるものです。

ここに至るまでのここ数年の政府税制調査会の議論や今回の改正の内容を見るに、
これはあくまでも↑上の目的を果たすための第一段階。
これを1つのきっかけとして、今後どのように相続税や贈与税の課税の仕組みが変わっていくのか、それともいかないのか。(なんか←こっちに行きそうな気もしますが(^^;)

相続税の申告を生業とする一(いち)税理士としても、注目し続けていきたいと思います。


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