民法(相続法)の改正に伴い、2020(令和2)年4月から新たに導入されている配偶者居住権。
2018年の年末に公表された平成31年度の税制改正大綱では、配偶者居住権の相続税評価の方法が示されましたが、
ここで示されたのはあくまでも、
- 配偶者居住権を設定したとき(=被相続人が亡くなったとき)の
-
配偶者・所有者別の土地や建物の相続税評価のやり方
だけで、それ以外の部分、具体的には、
- その後の話(配偶者居住権が消滅した場合)
- 配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅した場合の建物&敷地の所有者への相続税課税の有無
-
配偶者居住権の解除や放棄により配偶者居住権が消滅した場合の課税の有無とその方法
- 相続税評価以外の部分
-
配偶者が取得した敷地利用権は小規模宅地等の減額の特例の対象になるのか?
-
といったところは結局分からず終いでした。
これらについては、その後2019年中に、
国税庁のホームページや税制改正大綱で「答え」となる指針が出されています。
この記事では、これら「配偶者居住権の補足論点のあれこれ」を詳しく解説していきます。
この記事を書いた人
過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
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このページの目次
配偶者居住権が消滅した場合の課税関係
まず解説していくのは、上の1つ目の「その後の話」という部分です。
配偶者の死亡や合意による解除・放棄によって配偶者居住権が消滅した場合、配偶者や建物&敷地の所有者(例:子)にはどんな課税関係が生まれるんでしょうか?
配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅した場合【相続税】
まずは配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅した場合の取り扱いからです。
別記事でも確認したとおり、配偶者居住権を設定した場合、
建物については「配偶者居住権 100:建物の所有権 0」という割合で評価がされることもあり得ます。
このように、たとえば一次相続(被相続人の死亡)の時点で
- 配偶者居住権:1,000万円
- 建物の所有権:0円
で配偶者と子がそれぞれの権利を取得していたときに、その後配偶者が死亡した場合はどうなるのか。
「居住権を持っていた配偶者がいなくなった=その分自分(子)の財産が増えた」
というカウントになるのかならないのか。
これについては、
-
配偶者居住権が配偶者の死亡により消滅した場合、その時点で建物や敷地の所有者(例:子)への課税は生じない
(配偶者の生存中に有期の存続期間の期限が到来した場合も同じ)
というように、
- 配偶者居住権が設定されたあとにその権利を持っている配偶者が死亡したとても、その時点でその権利に対する課税はない
ということが示されました。
合意解除や放棄により配偶者居住権が消滅した場合【贈与税・所得税(譲渡所得)】
また、配偶者が死亡する前に
- 配偶者と所有者の合意による解除
- 配偶者による放棄
や
によって配偶者居住権が消滅した場合については、以下のような取り扱いが示されています。
- 配偶者居住権が配偶者と所有者の合意や配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合で、それに見合う対価の支払いがないときは、建物や敷地の所有者に対して贈与税がかかる
-
課税される金額は、消滅時点で配偶者が持っていた配偶者居住権などの権利相当額とする(=これを配偶者から贈与されたと考える)
- 配偶者居住権が配偶者と所有者の合意や配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合で、配偶者がそれに見合う対価の支払いを得たときは、配偶者に対して所得税(譲渡所得)がかかる
- 配偶者居住権が設定されている建物や敷地をその所有者が譲渡した場合、所有者に対して所得税(譲渡所得)がかかる
-
これらの譲渡所得の計算上控除する取得費は、それぞれに応じた一定の計算方法による(詳しくは後述)
参考URL:令和2年度税制改正大綱 | 自由民主党(PDF)
長ったらしいのでざっくりまとめると、
- 見合う対価の支払いなしに合意や放棄で配偶者居住権が消滅したら建物&敷地の所有者に贈与税課税
- 見合う対価の支払いを配偶者が得て合意や放棄で配偶者居住権が消滅したら配偶者に所得税(譲渡所得)課税
ということですね!
譲渡所得の取得費の計算はどうなる?【令和2年度税制改正大綱より】
また、先日公表された令和2年度の税制改正大綱では、
- 配偶者が見合う対価を得て配偶者居住権(建物部分)や配偶者敷地利用権(敷地部分)を消滅させた場合
- 配偶者居住権が設定されている建物&敷地をその所有者が譲渡した場合
の譲渡所得計算上の取得費(≒必要経費)について、それぞれの立場ごとの計算方法についても示されています。
その内容を配偶者・建物&敷地の所有者ごとに紹介すると↓以下のようになります。
- 【建物(配偶者居住権)】
- 被相続人の取得費(被相続人が取得した建物の金額)-取得日から消滅日までの期間にかかる減価の額
- ①×※配偶者居住権等割合
※配偶者居住権の額/建物の価額(いずれも配偶者居住権設定時) -
②-配偶者居住権の設定から消滅までの期間にかかる減価の額
- 【敷地(配偶者敷地利用権)】
- 被相続人の取得費(被相続人が取得した敷地の金額)
- ①×※配偶者居住権等割合
※配偶者敷地利用権の額/敷地の価額(いずれも配偶者居住権設定時) -
②-配偶者居住権の設定から消滅までの期間にかかる減価の額
- 【建物(配偶者居住権の目的となっている建物)】
- 被相続人の取得費(被相続人が取得した建物の金額)-取得日から譲渡日までの期間にかかる減価の額
-
①-(譲渡日までの期間として上の算式で求めた)配偶者居住権の取得費
- 【敷地(配偶者敷地利用権の目的となっている敷地)】
- 被相続人の取得費(被相続人が取得した敷地の金額)
-
①-(譲渡日までの期間として上の算式で求めた)配偶者敷地利用権の取得費
って、文章ばっかりで全然イメージわかないですよね(^^;
配偶者の取得費の計算の具体例
こういうのは具体的な数字に当てはめるに限ります。
- 被相続人の建物の取得費:1,000万円
- 被相続人の敷地の取得費:5,000万円
- 建物の取得から消滅日までの期間にかかる減価の額:600万円
- 建物の配偶者居住権等割合:50%
- 敷地の配偶者居住権等割合:40%
- 配偶者居住権の設定から消滅までの期間にかかる減価の額:50万円
とした場合の配偶者の建物・敷地それぞれの取得費がどうなるかというと、
- 【建物(配偶者居住権)の取得費】
- 1,000万円-600万円=400万円
- ①×50%=200万円
-
②-50万円=150万円
- 【敷地(配偶者敷地利用権)の取得費】
- 5,000万円
- ①×40%=2,000万円
-
②-50万円=1,950万円
というように、建物の取得費は150万円、敷地の取得費は1,950万円として配偶者の譲渡所得を計算することになります。
建物&敷地の所有者の取得費の計算の具体例
同じように、
- 被相続人の建物の取得費:1,000万円
- 被相続人の敷地の取得費:5,000万円
- 建物の取得から譲渡日までの期間にかかる減価の額:600万円
- 建物の配偶者居住権等割合:50%
- 敷地の配偶者居住権等割合:40%
- 配偶者居住権の設定から譲渡までの期間にかかる減価の額:50万円
とした場合の建物&敷地の所有者のそれぞれの取得費については、
- 【建物(配偶者居住権の目的となっている建物)の取得費】
- 1,000万円-600万円=400万円
- ①×50%=200万円
- ②-50万円=150万円
(ここまでが配偶者居住権の取得費の計算) -
1,000万円-600万円-③=250万円
- 【敷地(配偶者敷地利用権の目的となっている敷地)の取得費】
- 5,000万円
- ①×40%=2,000万円
- ②-50万円=1,950万円
(ここまでが配偶者敷地利用権の取得費の計算) -
5,000万円-③=3,050万円
となります。
配偶者が取得した敷地利用権は小規模宅地等の減額の特例の対象!
また、2つ目の疑問点・配偶者が取得した敷地利用権について小規模宅地等の減額の特例が認められるのか?という点については、
- 配偶者居住権に基づいてマイホームの敷地を使用する権利(敷地利用権)は「土地の上に存する権利」にあたるので、小規模宅地等の減額の特例の対象になる
-
敷地利用権について小規模宅地等の減額の特例を受ける場合の面積は、敷地利用権(配偶者の権利)と敷地所有権(子の権利)とのそれぞれの価額であん分した面積による
(→それぞれの金額で面積を分けた上で、それぞれの部分について小規模宅地等の減額の特例の適用の有無を判定する)
※上記2つ目の取り扱いは租税特別措置法施行令第40条の2第6項として2020年4月1日より施行されます。
といったあたりが示されています。
小規模宅地等の減額の特例については以下の記事で詳しく解説しています。
相続税の小規模宅地等の特例とは?制度の概要や要件をわかりやすく解説
配偶者居住権の補足論点のまとめ
以上、この記事では、2020(令和2)年4月から新たに導入されている配偶者居住権について、
2019年中に国税庁のホームページや税制改正大綱で示された補足論点の詳細を解説してみました。
もう一度以下にポイントを列挙しておきます。
(各項目へのリンク付きです)
ややこしい部分も多々ありますが、しっかりと理解しておきたいところです!
配偶者居住権とは?相続税評価の方法や注意点を詳しく解説
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ただ、これにより、「配偶者居住権の設定」が大きな節税方法にもなり得るわけで…。
この制度の創設趣旨とはズレた方向に行っている気がして、なんだかモヤモヤします。