平成27年(2015年)の1月から、基礎控除額がそれまでより4割も引き下げられている相続税。
こうなると大切になってくるのが、生前からの相続対策の重要性です。
相続対策には、
- 将来の相続税額を減らす
- 納税資金を確保する
-
遺産分割でもめない
という3つの柱がありますが、その中でも、
「将来の相続税額を減らす」ためにまずやるべきことが現状の把握です。
- 自分が取得する(親の)財産に対してどれだけの相続税がかかってくるのか
-
自分の財産に対する「相続税の限界税率」はいくらか
「相続税の限界税率」という聞きなれない言葉が出てきましたが、なぜこれを知ることが必要なんでしょうか?
その理由は、この割合が、相続税対策の一番の王道である生前贈与ととても深い繋がりがあるからです。
この記事では、上の2つの流れに沿って「相続税の限界税率」を解説しつつ、
それを意識することが相続税対策にどう有効なのかをお話ししていきます。
この記事を書いた人
過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
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このページの目次
有効な相続税対策には「現状を把握すること」が何よりも大切です
将来の相続税を減らすためにまず意識すべきなのは、なんと言っても現状の把握です。
自分(以下、相続人目線の「配偶者や自分の親」もこれに含めます)がどれだけの財産を持っていて、それに対してどれぐらいの相続税がかかってくるのか。
たとえば、
- 相続税の課税対象額が1億2,000万円で、
- 相続人が配偶者と子2人の計3人の場合、
- その財産に対して相続税が総額960万円かかってきて、
-
もし配偶者が遺産の半分を取得すれば配偶者の税額はゼロになるけど、子はそれぞれ240万円ずつを負担することになる。
といった情報の把握です。
こうした情報が無いと、そもそもどれだけ財産を減らせばいいのかすらわかりませんよね。
納税額を減らす対策はこれを踏まえて行っていくことになりますので、まずは現状の把握をしっかりと行いましょう。
その上で意識すべきなのが相続税の「限界税率」
その上で意識すべきなのが、この記事の冒頭から紹介している相続税の「限界税率」です。
限界税率とは?
限界税率とは、「適用される税率区分の中で最も高い部分の税率」のことです。
自分が持っている財産に対してかかってくる相続税のうち、最高の税率は何%なのか、ということですね。
相続税は、法定相続分に応じた取得金額が増えれば増えるほどそれに対して適用される税率も上がっていくという、「超過累進税率」を採用しています。
↓相続税の速算表にもあるとおり、税率は最低10%〜最高55%まで8段階に分かれています。
これを踏まえて、相続税の限界税率を具体的に求めてみましょう。
具体的には?
例えば、
- 相続税の課税対象額が1億2,000万円の財産を持っていて
-
自分が亡くなった場合の相続人が配偶者と子2人の計3人である人
この人の相続税の総額(配偶者の税額軽減などを考慮する前の税額)は960万円になりますが、
もし財産が1億2,000万円から1億1,000万円に減った場合、相続税の総額は960万円から785万円に減少します。
課税の対象となる財産の金額が1,000万円減ったことによって相続税額が175万円減った、ということは。
175万円(減った相続税額)/1,000万円(減った財産の金額)=17.5%
この17.5%というのが限界税率です。
この人の場合、最も高い税率として、実質17.5%の相続税がかかることになります。
「実効税率」とも違います
ちなみに、同じような言葉で「実効税率」というものがありますが、
これは、財産全体に対してどれだけの税額がかかっているのかを表す率で、ここまでの例でいうと、
- 960万円/1億2,000万円=8%
-
785万円/1億1,000万円=7.13%
がそれにあたります。
今は「現状1億2,000万円ある財産を1億1,000万円や1億円に減らしたら税額がどれだけ減るか」を考えようとしています。
どちらの率がやろうとしていることに即しているのかといえば、それは断然限界税率ですよね。
というわけで、ここまでが「相続税の限界税率とはなんぞや?」というお話でした。
これを踏まえてようやく
「将来の相続税額を減らす」
ためにはどうすべきかを考えることができます。
てか、これを踏まえた上で行わないと、相続税対策は最大限効果を発揮しません。
生前贈与は効果が出るまでに時間が掛かる?
「将来の相続税額を減らす」ためにはいろいろな方法がありますが、
一番お手軽で、かつ、余分なお金もかけずにできるのが現預金の生前贈与です。
とはいえ。
生前贈与は
- 贈与税の基礎控除は「財産をもらった人単位で年間110万円まで」と少ない
-
相続で財産を取得した人が、亡くなった人(=被相続人)の死亡からさかのぼって3年間に被相続人から贈与でもらっていた財産は、相続財産に加算されて相続税がかかってしまう
(「生前贈与加算」と言います。詳しくは「相続税の生前贈与加算とは?死亡前の贈与財産にも相続税がかかるかも!?」という記事で解説しています。)
という2点から、効果が現れるまでに時間が掛かる方法だとも言われます。
ただ、これも110万円の基礎控除の枠にとらわれすぎるからそう思うだけです。
相続税の限界税率が10%を超えてくる人の場合、たとえ贈与税が発生したとしても、110万円を超えて贈与をした方が、贈与税+相続税のトータルの税負担は逆にお得になります。
具体例を2つ挙げて考えます
以下に
- 子2人に年間100万円ずつの贈与を2年間(合計400万円)
-
子2人に年間500万円ずつの贈与を2年間(合計2,000万円)
それぞれ続けた場合の贈与税+相続税の税額の違いを並べてみます。
計算の前提は上から変わりません。
- 贈与する前の相続税の課税対象額は1億2,000万円
- 自分が亡くなった場合の相続人が配偶者と子2人の計3人
-
1億2,000万円に対する相続税の総額は全員合わせて960万円
(配偶者の税額軽減などの規定の適用は受けない)
【ケース1:子2人に年間100万円ずつの贈与を2年間続けた場合】(単位:円)
-
贈与税
1,000,000<1,100,000 ∴0 0×2人×2年=0 -
相続税
手順1:課税遺産総額を求める
1 課税価格の合計額
120,000,000-4,000,000=116,000,000
2 遺産に係る基礎控除額
30,000,000+6,000,000×3(法定相続人の数)=48,000,000
3 1-2=68,000,000手順2:課税遺産総額を法定相続分で按分する
1 配偶者
68,000,000×1/2=34,000,000
2 子1
68,000,000×1/4=17,000,000
3 子2
68,000,000×1/4=17,000,000手順3:税率をかけて税額を出す
1 配偶者
34,000,000×20%-2,000,000=4,800,000
2 子1
17,000,000×15%-500,000=2,050,000
3 子2
17,000,000×15%-500,000=2,050,000手順4:税額を再び合算する
4,800,000+2,050,000+2,050,000=8,900,000 -
①+②=8,900,000
【ケース2:子2人に年間500万円ずつの贈与を2年間続けた場合】(単位:円)
-
贈与税
(5,000,000-1,100,000)×15%-100,000=485,000
485,000×2人×2年=1,940,000 -
相続税
手順1:課税遺産総額を求める
1 課税価格の合計額
120,000,000-20,000,000=100,000,000
2 遺産に係る基礎控除額
30,000,000+6,000,000×3(法定相続人の数)=48,000,000
3 1-2=52,000,000手順2:課税遺産総額を法定相続分で按分する
1 配偶者
52,000,000×1/2=26,000,000
2 子1
52,000,000×1/4=13,000,000
3 子2
52,000,000×1/4=13,000,000手順3:税率をかけて税額を出す
1 配偶者
26,000,000×15%-500,000=3,400,000
2 子1
13,000,000×15%-500,000=1,450,000
3 子2
13,000,000×15%-500,000=1,450,000手順4:税額を再び合算する
3,400,000+1,450,000+1,450,000=6,300,000 -
①+②=8,240,000
どうでしょうか?(スマホの方は見にくくてすいません)
たとえ贈与税が1人毎年50万円ほど発生したとしても、
500万円ずつ贈与した方が贈与税+相続税トータルの負担は660,000円も少なくなります。
なぜこうなるのかと言えば、
贈与税の実効税率(1,940,000円/20,000,000円=9.7%)が相続税の限界税率(2,600,000円(減額した相続税額)/16,000,000円(減額した課税遺産総額)=16.25%)よりも低いためです。
また、100万円ずつの方では、相続税の手順3で適用される税率区分が配偶者の分は20%になっていますが、500万円だとそれが全て15%に下がっています。
これも、相続税の課税価格の合計額が減ることによって副次的に生まれてくる効果です。
これらの理由から、100万円ではなく500万円ずつ贈与した方が、贈与税の負担以上に相続税の減少効果が大きく、結果お得になる、というわけです。
もちろん、基礎控除額の範囲内の贈与でも、上の例だと2人×2年間で70万円も相続税が減るわけですから、生前贈与の有効性はここからもお分かり頂けると思います。
贈与税率の改正も影響しています
贈与税の実効税率と相続税の限界税率に差が生まれているのは、
「贈与税の税率は2種類。特例税率と一般税率の違いとは」という記事でも紹介したように、平成27年度から税率が軽減されている影響も大きいです。
特例贈与と一般贈与の税率表を見比べて頂きたいんですが、
特例贈与(直系尊属からの贈与)
一般贈与(それ以外の方からの贈与)
特例贈与なら510万円の贈与までが15%の区分で収まりますからね。
これまで以上に生前贈与がしやすい環境が出来上がっていると言えるのかもしれません。
相続税の限界税率とは?のまとめ
上記のとおり、たとえ贈与税を負担したとしても、贈与税の実効税率が相続税の限界税率を上回らない限り、生前贈与は相続税の節税には非常に有効で、相続対策のスピードをも早めてくれます。
そして、そのためにも相続税の限界税率を把握することがとっても大事!ということですね。
なお、相続税の限界税率は皆さん一律ではなくて、家族構成や財産の取得プランで変わってきます。
ご自身ではイメージが沸かない場合は税理士に相談されることをお勧めします。
相続の試算を依頼する、となれば数万円以上の報酬が発生しますが、
「限界税率の出し方を教えて!」
というような相談のみなら相談料だけで対応してくれる税理士も多いはずです。
(私もそれでお受けしています。)
法人や個人事業主の節税はお金が出ていくものが大半ですが、
相続対策における生前贈与は財産を取得するタイミング(相続で取得するか贈与で取得するか)が変わるだけで、被相続人と相続人の間で動く財産の量自体は変わりません。
それなのに、これだけの節税効果がある。
これからは生前贈与がますます加速していきそうな気がします。
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