2018年の民法(相続法)の改正で、
- 亡くなった人(=被相続人)に配偶者がいる場合に
- その配偶者が被相続人所有のマイホームに生前一緒に住んでいたときは
-
そのマイホームを誰が相続しようが、死亡後もそこに住み続けることができる権利
が認められることになりました。
これを「配偶者居住権」といいます。
(2020年4月1日から導入されています)
この配偶者居住権は民法上のれっきとした「財産」にあたるので、
これを実際配偶者が手に入れることになった場合には、その権利に対して相続税がかかります。
では、その権利にいったいどれだけの価値があるものとして相続税がかかるんでしょうか。
- 2018年12月に政権与党から公表された平成31(2019)年度の税制改正大綱
-
2019年3月に公表された改正後の相続税法
これらでその方法が示されましたので、この記事ではその方法を、
具体的な数字も交えつつ徹底的に掘り下げてみます。
この記事を書いた人

過去に税理士試験の大手予備校で相続税を教えていた経験から、相続税が専門分野。
事務所開業以来、相続税や贈与税の申告、相続税対策、相続税贈与税をテーマとした研修会の講師など、相続税に関する業務を多数行っています。
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このページの目次
配偶者居住権とは?
評価の方法を知る前に、まずは「配偶者居住権ってなんぞや?」という話からしておきましょう。
再度冒頭の文章を持ってきて紹介すると、配偶者居住権とは、
- 亡くなった人(=被相続人)に配偶者がいる場合に
- その配偶者が被相続人所有のマイホームに生前一緒に住んでいたときは
-
そのマイホームを誰が相続しようが、死亡後もそこに住み続けることができる権利
のことを言います。
また、配偶者居住権は上で列挙したこと以外にも、民法で↓以下のような特徴を持つものと規定されています。
-
= 配偶者居住権の主な特徴 =
- 基本、終身(配偶者が亡くなるまで)配偶者がマイホームに住む権利が保護される。
- 民法上の財産の一種とされる(「財産性がある」)ため、配偶者は遺産分割を経てこの権利を取得できる。
また、被相続人が遺言で配偶者にこの権利を取得させることもできる。 - 配偶者は、マイホームに住むことはもちろん、そこを使って収益を上げる(事業をする、他人に貸すなど)ことも可能。
- 配偶者居住権を取得した場合、その設定の登記が必要
- 配偶者居住権は他人に譲渡することはできない
-
マイホームの所有者の承諾さえ得られれば、配偶者はマイホームの改築や増築、マイホームを第三者に使用収益させることも可能。
このように、通常の賃貸借で借主が得る権利とほぼ同等の権利が配偶者に保障されます。
つまり、配偶者居住権が設定された場合、マイホームとその敷地については↓以下のような権利関係になるというわけです。
(壮絶な手書きで失礼しますm(_ _)m)
マイホームである建物とその敷地である土地、それぞれごとに
- 配偶者が取得する財産(赤い部分)の相続税計算上の価値(=「相続税評価額」と呼びます)
-
土地・建物を承継した人が取得する財産(青い部分)の相続税評価額
を求める必要があります。
ではそれをどうやって求めていくんでしょう??
その求め方は以下のようになります。
建物、土地、それぞれごとに解説します!
配偶者居住権が設定された建物の評価方法
まずはマイホームである建物の評価です。
居住権(配偶者が取得する財産)、所有権(建物を承継した人が取得する財産)、それぞれ↓このような算式を組んで評価します。
-
建物の配偶者居住権(配偶者が取得する財産)の評価方法
(1) (残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数
(2) 建物の時価×(1)×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
(3) 建物の時価-(2) -
建物の所有権(建物を承継した人が取得する財産)の評価方法
建物の時価-上で求めた配偶者居住権の価額
- 【用語の解説など】
- 残存耐用年数=建物の法定耐用年数に1.5をかけた年数-マイホームの築後経過年数
※年数はいずれも6月未満切捨、6月以上切上
※端数処理後の建物の構造別の耐用年数は国税庁「配偶者居住権等の評価で用いる建物の構造別の耐用年数」で確認できます。 - 存続年数=基本は配偶者の平均余命※年数(または遺産分割協議などで定められた配偶者居住権の存続※年数)
※年数はいずれも6月未満切捨、6月以上切上
※端数処理後の平均余命年数は国税庁「第22回生命表(完全生命表)に基づく平均余命」で確認できます。 - (1)の残存耐用年数、残存耐用年数-存続年数のいずれかがゼロ以下となる場合、(1)はゼロとする
- 建物の時価=配偶者居住権未設定時の建物の相続税評価額
- 民法の法定利率=現在は3%(3年ごとに改定あり)
-
複利現価率は小数点3位未満四捨五入。
※端数処理後の同率は国税庁「複利現価率(3%)」で確認できます。
- 残存耐用年数=建物の法定耐用年数に1.5をかけた年数-マイホームの築後経過年数
…って、こういうのは文字ではなく実際の数字に当てはめるに限ります(^^;
具体的には?
74歳女性の未亡人が木造で築年数30年と6ヶ月、相続税評価額が1,000万円のマイホームについて終身の配偶者居住権を取得するとした場合のそれぞれの評価額を計算してみましょう!
【建物の具体例その1】
・マイホームの法定耐用年数 22年(木造の居住用建物)
・マイホームの築年数 30年6ヶ月
・配偶者の年齢(74歳女性)に応じた平均余命年数 16年
・利率3%、存続年数16年の複利現価率 0.623
・建物の相続税評価額 1,000万円
-
建物の配偶者居住権(配偶者が取得する財産)の計算
(1) 22年×1.5=33年 33年-31年(6月以上切り上げ)=2年
2年-16年=0
(2) 10,000,000円×0×0.623=0円
(3) 10,000,000円-0円=10,000,000円 -
建物の所有権(建物を承継した人が取得する財産)の計算
10,000,000円-10,000,000円=0円
このように、上の例ではマイホームの相続税評価額の全額(100%)が配偶者居住権で、建物所有権の金額はゼロという結果になります。
もうひとつ、同じ条件でマイホームが鉄筋コンクリート造(法定耐用年数47年)だという場合も計算してみましょう。
【建物の具体例その2】
・マイホームの法定耐用年数 47年(鉄筋コンクリート造の居住用建物)
・マイホームの築年数 30年6ヶ月
・配偶者の年齢(74歳女性)に応じた平均余命年数 16年
・利率3%、存続年数15年の複利現価率 0.623
・建物の相続税評価額 1,000万円
-
建物の配偶者居住権(配偶者が取得する財産)の計算
(1) 47年×1.5=70.5年→71年(6月以上切り上げ)
71年-31年=40年
(40年-16年)/40年=0.600
(2) 10,000,000円×0.600×0.623=3,738,000円
(3) 10,000,000円-4,012,500円=6,262,000円 -
建物の所有権(建物を承継した人が取得する財産)の計算
10,000,000円-6,262,000円=3,738,000円
こちらは、建物の相続税評価額1,000万円のうち、配偶者居住権が6,262,000円、建物所有権が3,738,000円という結果になりました。
ポイントはマイホームの残存耐用年数と配偶者の平均余命年数
配偶者居住権の割合が大きくなるか小さくなるかのポイントは、
マイホームの残存耐用年数と配偶者の平均余命年数がそれぞれ何年あるかです。
- 「あと●年使える」というマイホームの残存耐用年数が短ければ短いほど
(具体例その1の場合はこれが13年、その2の場合は40年) -
「あと●年生きる」という平均余命年数が長ければ長いほど
(74歳女性は16年だが、もし68歳女性ならこれが22年になる)
配偶者が取得する配偶者居住権の金額は大きくなり、建物の承継者が取得する建物の所有権の金額は小さくなります。

てか、上の算式は大綱の文章に従って書いているので、
同じ数字を何度も引いたりとゴチャついてますが、結局は↓こういうことですよね?
-
建物の所有権(建物を承継した人が取得する財産)の評価方法
(1) (残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数
(2) 建物の時価×(1)×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率 -
建物の配偶者居住権(配偶者が取得する財産)の評価方法
建物の時価-上で求めた建物の所有権の評価額
なんかだいぶスッキリした気がします(^^
- マイホーム=建物の相続税評価額は基本「固定資産税評価額×1.0」です。
建物(家屋・倉庫など)の相続税評価の方法【自用・貸家・賃貸割合】 - ただし、生前に加えていたリフォームが固定資産税評価額に反映されていない場合には↑これだけでは収まらない可能性も。
家屋を生前にリフォームしていた場合の相続税評価の注意点
配偶者居住権が設定された土地の評価方法
一方、配偶者居住権が設定された場合のマイホームの敷地(土地(宅地)や借地権など)の評価方法は建物よりも単純です。
建物と同じく、算式を文章をまとめてみると。
-
土地等の敷地利用権(配偶者が取得する財産)の評価方法
(1) 土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
(2) 土地等の時価-(1) -
土地等の所有権(土地を承継した人が取得する財産)の評価方法
土地等の時価-上で求めた敷地利用権の価額 - 【用語の解説など】
- 存続年数=基本は配偶者の平均余命※年数(または遺産分割協議などで定められた配偶者居住権の存続※年数)
※年数はいずれも6月未満切捨、6月以上切上
※端数処理後の平均余命年数は国税庁「第22回生命表(完全生命表)に基づく平均余命」で確認できます。 - 土地等の時価=配偶者居住権未設定時の土地等の相続税評価額
- 民法の法定利率=現在は3%(3年ごとに改定あり)
-
複利現価率は小数点3位未満四捨五入。
※端数処理後の同率は国税庁「複利現価率(3%)」で確認できます。
- 存続年数=基本は配偶者の平均余命※年数(または遺産分割協議などで定められた配偶者居住権の存続※年数)
具体的には?
こちらも、実際の数字に当てはめてみましょう。
条件は建物の具体例と同じです。
【土地の具体例】
・配偶者の年齢(74歳女性)に応じた平均余命年数 16年
・利率3%、存続年数16年の複利現価率 0.623
・土地の相続税評価額 5,000万円
-
土地等の敷地利用権(配偶者が取得する財産)の計算
(1) 50,000,000円×0.623=31,150,000円
(2) 50,000,000円-31,150,000円=18,850,000円 -
土地等の所有権(土地を承継した人が取得する財産)の計算
50,000,000円-18,850,000円=31,150,000円
配偶者の平均余命年数が長ければ長いほど、配偶者が取得する敷地利用権の金額は大きくなり、土地の承継者が取得する土地の所有権の金額は小さくなります。
マイホームの敷地の相続税評価の方法は以下の2つのどちらかです。
路線価方式とは?市街地の宅地の評価方法を詳しく解説
倍率方式とは?倍率表の見方から計算方法まで徹底解説
相続税評価以外の気になる取り扱いは?【詳しくは別記事にて】
以上が、配偶者居住権が設定された場合の建物と土地の相続税評価の方法となります。
ただ、ここまで解説してきたのは、あくまでも
- 配偶者居住権を設定したとき(=被相続人が亡くなったとき)の
-
配偶者・所有者別の土地や建物の相続税評価のやり方
だけで、それ以外の部分、具体的には、
- その後の話(配偶者居住権が消滅した場合)
- 配偶者の死亡により配偶者居住権が消滅した場合の建物&敷地の所有者への相続税課税の有無
-
配偶者居住権の解除や放棄により配偶者居住権が消滅した場合の課税の有無とその方法
- 相続税評価以外の部分
-
配偶者が取得した敷地利用権は小規模宅地等の減額の特例の対象になるのか?
-
といったところは結局分からず終いでした。
これらについては、2019年になってから国税庁のホームページや令和2年度の税制改正大綱である程度答えとなる指針が出されています。
その内容は「配偶者居住権の補足論点のまとめ【消滅・小規模宅地等の減額】」という別記事で詳しく解説しています。
さらに細かい論点は国税庁ホームページをどうぞ【共有・賃貸の場合など】
ほか、国税庁の↓以下のホームページでは、当サイトでは書ききれない配偶者居住権に関する細かな取り扱い(共有していた場合、賃貸していた場合など)についても詳しく解説されています。
「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」について(情報)|国税庁
この記事で紹介した建物の耐用年数、平均余命、複利現価率も含めて、配偶者居住権のあらゆる論点について知りたいor必要な情報が集約されていますので、興味のある方は是非覗いてみてください。
配偶者居住権の相続税評価の方法のまとめ
というわけで、この記事では、
- 2018年12月に政権与党から公表された平成31(2019)年度の税制改正大綱
-
2019年3月に公表された改正後の相続税法
の内容から、配偶者居住権が設定された場合の建物と土地の相続税評価の方法を解説してみました。

相続税評価の方法自体も結構ややこしいんですが、
先に紹介した別記事でも書いているように、それ以外の論点にも気をつけなければいけない配偶者居住権。
我々税理士も、しっかりとその内容を理解しておきたいところです。(自戒を込めています)
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(利率3%はかなり高めの率ですが…。)